第一幕:祭の朝

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第一幕:祭の朝

 世界地図の真ん中にある盃型をしたアサボラ大陸。その地図の右上あたりに小さくマルをしたみたいに山脈に囲まれた小さな村がある。  それが僕らの暮らす「円村(まどかむら)」だ。  いつもより早く目覚めた僕は鏡に向かってふぅ、とため息をつく。  今宵は年に一度の成人祭。毎年夏の終わりの夕刻時に始まり、その年の17歳を大人として歓迎する宵祭り。   祭りでは大陸を縦断する大きなアサボラ川で獲れた魚の刺身や村の皆が作ったご馳走、酒やジュースなどが並ぶ。この日に合わせて"外"から珍しい甘味なんかも届けられたりするんだけど…  今年ばかりは手放しで楽しむなんてできそうにない。だって僕も主役の1人だから。  本音をいえばさ、成人祭を機に大人だなんておかしな話だと思うんだ。だって人は色々な経験を重ねてだんだんと大人になっていくじゃないか。   僕はまた1つ溜め息をついてから明るいアッシュカラーの髪をヘアワックスで軽くセットする。鏡越しの黒ぶち眼鏡の奥に見える薄いブルーの瞳が、心なしか曇って見えた。 「今日から大人って言われてもなぁ…」  眼鏡拭きでレンズを磨き、いつもとなんら変わらない自分自身に希望と不安を抱きながら、僕らの一日は始まった。 cf42ce69-b1d7-40da-b7a4-6407b09e9475
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