27人が本棚に入れています
本棚に追加
この日は毎年、日が高いうちから村中の者が広場に集まり準備を始める。主役である僕らも例外ではない。
成人祭の会場になる村はずれの広場で僕は、二つ年下の妹・風音とたいまつ作りにいそしんでいた。
「蒼希!ちょっとこっち助けてくれ!うちの裏の井戸んとこ!」
突然、酒屋のおじちゃんに声を掛けられ反射的に「はい!」と返事をする。しかしすぐには動けない。僕は自分の背よりも高いたいまつを支えながら、ジリジリと焦がすような日差しを注いでくる太陽を憎んだ。
支柱になる五本の丸太を二人で整えながら縄でまとめていく。しかし手が滑ってしまってなかなか上手くいかないのだ。
「おにーちゃん、ごめん、もう腕が限界ぃ…」
「ええっ!頑張ってよ風音!僕一人じゃちょっと、」
無理、と言いかけた時にふっと腕が軽くなるのを感じた。
顔を上げると幼馴染の桜将が少し長めの黒い前髪を揺らしながらたいまつを整え手際よく縄で固定してくれていた。
「桜将!助かったよ~」
桜将も今夜の主役の一人。年は同じだけど僕よりも背も高いし力も強い。村の外に棲む異形と呼ばれるモンスター達が襲って来たとしても負けないんじゃないかな。
嫉妬するわけじゃないけど僕よりモテるし、同じ男から見てもかっこいいやつなんだ。
「ここ俺やっとくから、酒屋のおっちゃんとこ行ってやって」
「うん、ありがとう!」
酒屋の方へと走り出すと「桜将くんほんと頼りになる!お兄ちゃんとは違うわー!」という妹の黄色い声が聞こえてきて顔が引きつる。
思わず振り向きざまに嫉妬でねじ曲がった視線を桜将に送っておいた。
ああくそ、僕ってばやっぱり桜将に嫉妬してるんじゃないか──!
情けなさを振り切るように全力で走る。
暑い日が一カ月ほど続いているが、風が吹けば爽やかさを感じられた。もうじき夜には虫の音が聞こえるようになるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!