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僕の中に棲むドラゴン
僕が酒屋の裏へ駆け込むと、目に飛び込んできたのは酒屋のおばちゃんが井戸端にうずくまっている姿。側にはおじちゃんが難しい顔で井戸を見つめている。
酒屋におつかいに来るとき、おばちゃんはいつも福の神みたいなニコニコ顔で出迎えてくれるのだが、今は貧乏神でも連れていそうな雰囲気である。
「悪いな、蒼希」
おじちゃんが申し訳なさそうに片手を顔の前に立てている。
「おばちゃん、大丈夫?どうしたの?」
片膝をついてしゃがむと、やっぱり貧乏神を連れていそうな目で「井戸ん中に、うっかり…手を滑らせて…」と絞り出すような声で訴えた。
「なにか落としちゃったの?」
「ああ。あれがないと、困るんだよ…」
この井戸の直径は一般的な井戸の三倍以上ある大きなもの。水は澄んでいるが覗き込んでも底は見えない。
「おばちゃん、大丈夫。僕に任せて」
今おばちゃんを福の神に戻せるのは、僕しかいない。
──心を静めて、僕の中に棲む「彼」に呼びかけた。
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