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市街地より少し小高い丘の上に新しい住宅地がある。鈴子は3ヶ月前にここに引っ越してきた。小さいながらも、こだわりのつまった念願のマイホームだ。
二つ年上の夫の優一は、名前の通り優しく気がきいていて、背が高く、美男子だと思う。よく、仲のいい友達に [ 美男と野獣 ] と言われ、からかわれた。鈴子は自分を、どちらかというと健康的で美しいタイプだと思っている。そして、もうすぐ2歳の息子の圭は、親ばか目線もはいって可愛い盛りである。はじめは、息子が1歳になったら保育園に預けて働くつもりだった。その方が将来のためになると思ったのだ。けれど、優一に家にいて子供を育てて欲しいと懇願され、鈴子は専業主婦になった。その分、夫に負担がかかっているのではないだろうかと心配になる。懸命に働いているのようなのだ。そのうえ家事も子育ても一緒にやってくれる。
考え事をしていたら、空の色が変わり始めたのに気付いて、鈴子は焦り始めた。
「けいちゃん。そろそろ帰ろうか。ママ、夕ごはん作らなくちゃ。」
公園の砂場で、砂山作りに夢中の息子は、もう少しだけと目で訴えてくるが、母親の事情を察してお砂遊びセットを片付け始めた。その姿もいじらしくて可愛いのである。
「パパ、もうすぐ帰ってくるかなぁ。」
鈴子は圭の小さな手を繋ぎ、道端のささいな出来事を二人で楽しみながら自宅に帰る。
ーああ、なんて幸せなんだろう。
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