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愛しきものたち
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
5年前の7月26日、豊平川の花火大会の日だ。
その日は仕事で、花火大会には間に合わないけど…朝、妻が言ったんだ。
「ベランダで花火大会をしよう!」
外回りから戻った俺は、急いで事務処理に取り掛かって居た。
損害保険会社の技術アジャスターの仕事をしている俺は、外勤がほとんど。
本当ならもっと早く終わるはずだったのに、急な立会いが入って遅くなっていた。時刻は19時を少し回った頃だ。
「成瀬くん!警察から外線だ」
警察?怪訝に思いながらも電話に出ると、妻が事故に遭い搬送されたという知らせだった。上司も電話口で告げられて居たらしく、早く行くよう言ってくれて…急いで会社を出たことを覚えている。
次の記憶は、搬送先の病院。
「懸命に処置をしたんですが、出血が酷くて…いま付けている人工呼吸器を外せば…」
「そんなこと言わずに何とかしてくれよ!」
俺は取り乱して医者に楯突いたけど結局、妻は目を覚ますことはなかった。
成瀬 義明と前田 那智が出逢ってから3年。
結婚して成瀬 那智になってから1年と11ヶ月。
しかも彼女は6月に33歳になったばかりだ。
ー近所のスーパーからの帰り道だった。
スーパーを出たところに信号のない横断歩道がある。
もちろん、車側には一時停止義務がある。歩行者優先。
右側の運転手は停まり、通報してくれたのも彼だ。
歩道の半分まで来た時、妻は重い荷物を持ち直そうとして一瞬立ち止まったらしい。そこへ…左側から来た車が突っ込んだ。
加害者曰く「そのまま進むと思った。そうすれば停まらずに行けると思った」
更には、スマホを操作してのながら運転だったことも判った。
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