愛しきものたち

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

愛しきものたち

 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。  5年前の7月26日、豊平川の花火大会の日だ。  その日は仕事で、花火大会には間に合わないけど…朝、妻が言ったんだ。  「ベランダで花火大会をしよう!」  外回りから戻った俺は、急いで事務処理に取り掛かって居た。  損害保険会社の技術アジャスターの仕事をしている俺は、外勤がほとんど。  本当ならもっと早く終わるはずだったのに、急な立会いが入って遅くなっていた。時刻は19時を少し回った頃だ。  「成瀬くん!警察から外線だ」  警察?怪訝に思いながらも電話に出ると、妻が事故に遭い搬送されたという知らせだった。上司も電話口で告げられて居たらしく、早く行くよう言ってくれて…急いで会社を出たことを覚えている。  次の記憶は、搬送先の病院。  「懸命に処置をしたんですが、出血が酷くて…いま付けている人工呼吸器を外せば…」  「そんなこと言わずに何とかしてくれよ!」  俺は取り乱して医者に楯突いたけど結局、妻は目を覚ますことはなかった。  成瀬 義明(なるせ よしあき)前田 那智(まえだ なち)が出逢ってから3年。  結婚して成瀬 那智(なるせ なち)になってから1年と11ヶ月。  しかも彼女は6月に33歳になったばかりだ。  ー近所のスーパーからの帰り道だった。  スーパーを出たところに信号のない横断歩道がある。  もちろん、車側には一時停止義務がある。歩行者優先。  右側の運転手は停まり、通報してくれたのも彼だ。  歩道の半分まで来た時、妻は重い荷物を持ち直そうとして一瞬立ち止まったらしい。そこへ…左側から来た車が突っ込んだ。  加害者(いわ)く「そのまま進むと思った。そうすれば停まらずに行けると思った」  更には、スマホを操作してのだったことも判った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!