愛しきものたち

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 仕事柄、人身事故に接する事も多いけど…。那智の事故には、事故原因の上位に挙げられるほとんどが重なっていた。  夕暮れ時、横断歩道、左側からの走行車、だろう運転、ながら運転…。  損害保険の仕事に就く俺が、事故で妻を失うって…何の因果だよ。  那智は、向日葵(ひまわり)みたいな女の子だった。  喜怒哀楽がハッキリしててよく振り回されもしたけど、一緒に居ると何でもない日常がキラキラして見えた。  「だからさ、似合わないんだよ…こんなとこで寝てんの」  目の前で横たわる那智は驚くくらい無表情で、そんな顔それまで一度だって見た事がない。  白い壁、白いシーツ…那智の言葉が思い出される。  『私ね、超絶…白が似合わない!』  あの頃は、白が似合わない奴なんているかよって笑ってたけどさ  「…那智、お前やっぱり白は似合わんわ」  いつまでも泣き笑ってる俺の肩に手を置く母親がいた。  「アンタ、なに笑ってるの…」  「…母さん。いや…那智がさ、ずっと言ってたんだよね…自分は白が似合わない、って…な?全然似合わないだろ…?」  悲しいんだかおかしいんだか分からなくなった。   「なっちゃん…こんな、可哀想に…」  母親の泣いてる姿も、親父の時以来だ。  物怖じしない那智は、俺の両親ともすぐに打ち解けてくれて。結婚前から俺抜きで遊びに行ったり泊まりに行ったり…。そんなの、周りで聞いた事がないよ。  「那智、起きろよ…」  動かなくなった那智の肩を揺すってみた。   「義明…」  母親が俺の背中に手を置いてなだめようとしている。  「お前さ、言ってたじゃん…自分は絶対…俺より…俺より先に…死なないって…那智が言ったんじゃん…」  このまま一生、涙が止まらないんじゃないかと思った。  母親の顔を見て、気が抜けたんだろう。どうやって那智を連れて帰ったのかも思い出せないくらい…その日の記憶は、そこで途切れた。
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