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「ナチ…大丈夫か?」
俺の膝の上で苦しそうに小刻みの息をしながらぐったりとしているのは、那智が亡くなった年に飼い始めたトイプードルだ。
「…苦しいか?…苦しいよな…もうすぐ着くからな」
朝一で向かった動物病院で、獣医からは今日がヤマだと言われた。もう、手の施しようがないと。診察台の上で苦しそうに鳴きながら、それでも俺の姿を探して体を撫でる俺の手を懸命に舐めた。
俺は、ナチが大好きなあの家で最期を看取ってやろうと思った。
「那智…もうすぐだぞ」
呼びかけながら、いつの間にか那智とナチが重なる。
「…家に、帰ろうな…」
雨も降ってないのに、目の前の景色が滲んでいく。
ナチの姿を見守りながら、那智の最期の姿が思い出された。
どうしていつも俺の大切な命が奪われる。
神様なんて、いないじゃないか…。
本当にいるんなら、俺から那智を奪わないでくれよ…。
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