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駅前は今日も賑やかだった。平日だが暖かくなってきたことだし人出は以前よりも増えている。観光客でごった返す商店街を抜けて、潤一郎は絵画教室の鍵を開けた。
今日の課題は水彩絵の具で見本の線画を着色する。筆入れと筆を用意して生徒の来る前に床には汚れても良いように新聞紙を敷いた。やがて一人二人と生徒が増えて今日も授業が始まる、その頃のことだった。
「すみません」
「はい?」
どこかで見覚えのある服を着た、眼鏡に黒のキャスケット帽の男が教室の入り口に立っていた。
「ここですか、水無月静潤先生直々の技術が学べる教室って言うのは」
「あ……」
「初めまして、趣味で絵を描いているのですが行き詰まってしまって。見学希望です、雰囲気が良ければ通おうかなって」
「あ、ああ……その、いきなり見学は」
「良いじゃあないですが、見ているだけです。ボク水無月静潤先生のファンで……」
生徒は気がついていないが潤一郎は気がついていた。目の前の男は変装した雲雀群童だと言うことを。
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