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余った椅子に座りながら雲雀はきょろきょろと落ち着きなく辺りの生徒の作品を見ている。時たま潤一郎に向ける瞳、なんてやりにくい授業だろうか。
「水無月先生、ちょっと良いですか?」
生徒の一人、その声に潤一郎が応えると雲雀も席を立ってのぞきにくる。
「ここの、光の色に迷ってしまって」
「ああ、そうだねここは確かに迷ってしまうね」
「……別に好きな色に塗れば良いじゃないか。絵は写真じゃない、自分の作品くらい好きにできなくてどうする」
「あの、……見学の方はご遠慮ください」
雲雀を制して潤一郎は生徒の作品にアドバイスを続けた。一言も二言も言い足りない雲雀は少しむくれて席に戻る。穏やかな教室の風景に雲雀は目を細めた。その風景に自らの孤独を思うように、少し寂しげな顔をしながら。
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雲雀群童の創作は孤独だった。彼の作品は幼い頃から際立っていたものの日本では彼の才能を理解出来ない人間が大半で、仕方なく雲雀がこの国を飛び出しステージを探しに海外に向かったのが十七歳の時。彼はバイトを重ねながらヨーロッパを旅して洗練されたアーティストの魂を学ぶ。絵を描くばかりではない、作品のテーマによって表現方法を変える『東洋のカメレオンアーティスト』だと世間は彼を噂し始めた頃、二十代になった雲雀は帰国する。
一大ブームが起きた、それからの十年で雲雀は国内外アート界を席巻する。しかし海外だろうがどこだって家を建てられたのに、彼が日本にとどまることを選んだのは一つの恨みに似た感情があった。理解されなかった十七歳、ただ何よりも素晴らしいと思ったことを表現しただけなのに当時の雲雀は理解されなかった。時代の数歩先を歩いてしまったのだと気がついた頃には雲雀はもう戻れない、そんな人生を歩んでしまった。まだだ、これからこの国を変えてみせる、そんな青い炎はいまでも雲雀の心の中でくすぶっている。
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