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不自由
「ゴホッ、ケホッ! ……ゴホン、ケフッ……!」
息が出来ない、胸をかきむしりながら潤一郎は目を覚ました。時折、発作のように呼吸が出来なくなる。生来のものだから仕方がないとあきらめていたけれど。
荒い呼吸を落ち着かせて、ようやく潤一郎は自分を取り戻した。午前六時、ああもう起きる時間か。今日は週三回行っている絵画教室の授業がある日だった。気怠い身体を無理やり起こして、窓を見れば快晴。朝の空気は冷えていて吸い込みすぎると胸が痛くなるから……そこでふと思い出した、昨晩からの同居人のことだった。
「おはようございます、先生」
着替えて居間に行けば身なりを整えたいとが開け放った障子の向こうにある縁側を越えて手入れのされていない庭をじっと見つめている。洗濯物と一本の桜の木、今年の桜ももうだいぶ散ってしまった。
「はやいな、もう起きていたのか」
「目が冴えてしまって、お部屋から見る夜明けはとても綺麗でした。東京はビルが多くって」
「ここは山に近いからな」
「お寺の鐘の音も聞こえますね」
静かな街の朝の風景、こうやって誰かと『朝』を始めたのは潤一郎にとっては久しぶりのことで、少し戸惑っている。
「いと、朝食は何がいい?」
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