750人が本棚に入れています
本棚に追加
11
俺は鷹城を見つめたまま、それ以上何も言わなかった。冷や汗をかき始めてしまい目を逸らす。鷹城に背を向け、座ってスニーカーを履いた。
「怒ってないのか、宇野」
「何?」
「俺のこと。あんだけ色々、好き勝手やったのに」
俺は立ち上がり鷹城に向き直って、言った。
「怒ってるよ、でもバイトは店長の恩情で続けられてるし……」
「そうかよ……」
鷹城はそう呟いてじっとこちらを見ていたが、しばらくして目を逸らし、いつもの口調に戻った。
「あのな、だいたい夏休みの予約つったら、普通二、三ヶ月前には」
「言い訳だけど……、ここ最近はいろいろ悩んでたんだ。鷹城とのこともあったし」
鷹城は微かにため息をついた。
「わかったよ、どっか探してやるから。日付は?」
「28、29なんだけど……。でも、さすがに身内でも無理なんじゃ」
「任せとけって」
「ありがとう!! 助かる! ……あ、でも割増料金とか、かかっちゃうかな」
「俺の友達ってことにするから」
「ありがとう」
俺は大雑把に抱きついてみせた。すぐ離れようとしたが、鷹城の右手が一瞬で背にまわっていた。
「じゃあ、ほんとありがとう……。俺も帰って勉強するから」
そう言って腰を引いたが、鷹城の腕は緩まない。
「かぶってる分あるだろ。うちでやってけば」
「俺、ノート中心で勉強するから……、自分のじゃないと」
一人暮らしの家に入ったのだから、この事態は想像しないでもなかった。
しかし、鷹城は反省しているようだったし、次々と俺の言うことを聞いてくれたので、油断してしまった。抱きついたのはやりすぎだった。おだてればもっと優遇してくれるのではと欲が出た。
鷹城は急に顔を逸らした。コップを置く場所を探しているのだとわかった。
俺は腕から逃れようと力を込める。それに気づいた鷹城が姿勢を崩したと思ったら、冷たい感触が胸元に広がる。氷が、コン、コンと床に落ちていった。コップは割れなかった。
白に英字がプリントされた俺のTシャツは、泥水をぶちまけたような色に染まっていた。
「ああ……」
思わずそう漏らす。近所の量販店で三枚二千円で買ったTシャツだったから、それほど怒りはない。
「わ……悪い」
「いいよ、安いやつだから。なんか服貸して」
そう言いながら、紐をゆるめ靴を脱いで廊下に上がった。
「おう……、その前に、シャワー浴びるだろ」
「ん? いや、……適当に拭けばそれでいいよ。別に寄るとこないし」
「それ、首とか……ベタベタするだろ、こっち」
強引に手首を掴まれ、サッと血の気が引いた。これではまるで、いつもと同じだ。
「鷹城」
脱衣所の壁に押し付けられる。鷹城は首筋にキスをしたあと、Tシャツの上から思いきり乳首を吸ってきた。
「ちょっ……!」
その胸を吸い上げる感触に、驚くほど感じてしまっていた。思わず息を呑んだ。
自分の身体がまるで別物のように感じる。よくよく考えれば、以前は定期的にこうやって愛撫を受けていたのだから、変化があっても仕方ないのかもしれない。それにしても……。
力が抜け、いつのまにか床へ座り込んでしまう。
「……帰る、から」
鷹城はTシャツ越しに何度も吸い付いてくる。あいているほうの乳首も指先で弄っている。その感触が懐かしくて、気持よくて……。そこを弄られた分だけ、気持ちがどんどん淫猥になっていくのだった。頭の中では勝手にその先を想像し、期待してしまう。
しかしわずかに残っている理性が、早くここから逃げろと急かしていた。
胸から鷹城の頭をなんとか退かし、立ち上がって脱衣所から出ようとする。
後ろから鷹城が抱きしめてきた。
「一緒に浴びようぜ」
「いい、帰るよ」
「俺のこと、心配してくれたんだろ。……結構、嬉しかった」
腹のあたりからTシャツに手を突っ込まれた。太い人差し指が、乳首の先端をゆっくりと撫でる。快感に身を震わせる。もう何もかも忘れて身を委ねてしまいたいくらいに、鷹城の指先が好きだった。
「鷹城、帰るっ……から」
「もう勃ってるじゃねーか、仕方ねぇやつだな」
楽しげにそう言い、左手で大きく股間をまさぐる。
「やめ……」
「手とフェラと、どっちがいい?」
鷹城は、耳へ吹きこむように喋る。
「俺、帰る…」
「指で、中、かき回されたい?」
「全部、やだ……」
「じゃあこれどうすんだよ、自分で扱いて帰るか? あ、俺見ててやるから」
「やだって言ってんだろ! 離せよもう!」
怒鳴って思いきり、鷹城の脛を蹴りつける。俺はその隙に逃げ出した。しかし玄関で靴がうまく履けない。サンダルで来れば良かった……。もたもたしているうちに背後から強く腕を掴まれる。
「わかった。……もうそろそろ俺のチンコ、突っ込んでほしいのか? ベッドもあるし、ちょうど良かったな」
最初のコメントを投稿しよう!