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「嫌だ……」 「やれよ」 「……なんだよ。何がしたいんだよ。悪かったよ無視して」 「ぐだぐだ言ってないで、早くやれよ」 「嫌だって」 「別に、もっとおまえが嫌がることで、済ませてもいいけど。例えば……」 「クズ。学校に言いたいなら言えば。鷹城のことだって言ってやるから」 「まぁ……、注意くらいだろ。俺はそのくらいなんでもないけど……。宇野は困るんじゃないの? 奨学金もらってるんだし……。ああ、他のバイトも禁止になっちまうかもな」  一体どうやって調べたんだろう。すべて鷹城の言うとおりだった。強気になってはったりを言ってみたが、バレバレだったようだ。 「いいのか? ……いろいろ、すげー面倒だろうな」  鷹城は重ねてそう言う。確かに謝罪だとか説明、手続き……そういうものを考えただけでうんざりした。  もう一度、鷹城に目を向ける。  これが終われば、気が済むだろうか。 「もう、俺に付きまとうの……、今日で終わりにしてくれよ。だったら、してもいい」 「付きまとう?」  鷹城は不思議そうに繰り返した。 「あっそ。わかったよ……まあ、じゃあそれでいい。今日で終わりだ。ちゃんと最後までイかせろよ」  そう聞いて俺は覚悟を決めた。  床に膝をつくと、顔は鷹城の腰と同じ高さになる。  雄は下着から外に出ていた。そばに寄るまでよく見えなかったが、鷹城のそれは、なぜか既に勃起していた。すごい角度で反り返っている。かなり立派で、俺はまたわずかな劣等感を感じながらも、なんとか雄に触れる。中途半端なことをやると、また文句をつけられるかもしれない。  俺は目標に口を近づけながら、ぎゅっと目を閉じた。味だとか……匂いだとかのことは、できるだけ思考から消そうと努力する。  死にそうとまでは言わないが、気分は最悪だった。  鷹城の雄は大きくて、うまく口に含めなかった。それでもなんとか慣れようと頑張っているのに、鷹城が頭に触ってきて気が散る。  手は側頭部を撫で、時折耳をくすぐってくる。もったいぶった触り方をするので、なかなか集中できなかった。 「触るな」  そう言って手を払ったが、またすぐに頭を掴まれる。今度はやや乱暴だった。 「もっとちゃんとやれよ」  鷹城がいきなり雄を押し込んでくる。俺は驚いてむせる。顔を離した。  何か気管に入ってしまったのか、咳が止まらなかった。口を押さえ、横を向く。 「おい……大丈夫か」  なぜか気遣うような声が聞こえ、俺は頭に疑問符を浮かべながらも、なんとか息を整えた。 「鷹城、動くなよ。驚くだろ」  またすぐに腰の前へ顔を戻した。気を取り直して、再び雄を口に含む。  もう俺は、半ばやけくそになっていた。途中でやめたら次も同じことを強要されるかもしれない。それよりは今日済ませてしまったほうが、ずっと良い。 「ん、……ん」  口と手を精一杯動かし、できるだけ間をあけないようにして続けた。もう頭は触ってこなかったので、いくらかマシだった。  やがて鷹城は達した。  俺はすぐに顔を離したもののタイミングが悪く、口の中、それと頬に少し精液がかかってしまった。無言で鷹城をドアの前から退かせ、個室を出る。急いで洗面台の蛇口をひねった。口をゆすぎ、顔を洗い終わって水気を拭っている頃、個室ドアの開閉音がする。  振り返ると、鷹城が出てきていた。衣服は整っている。なぜかやけに神妙な面持ちだった。 「宇野。俺……、実は」 「ちゃんと約束は守れよ。もう二度と話しかけてくるな」  冷めた口調でそう言って、俺はトイレから外に出た。  週明けの月曜、信じがたいことに本校舎の玄関で、鷹城と鉢合わせた。どうやら待ち伏せされていた。無視して前を通り過ぎようとするが、声を掛けられる。 「宇野、ちょっといい?」  俺は歩みを止めなかった。 「おい」  腕を掴まれたので、大きく振り払う。 「約束はちゃんと、守れよ」 「あの、ほんと悪かったからさ……、ちょっと来てくんない?」  鷹城が向かった先は、先週と同じ旧講堂だった。やはりトイレに向かっている。嫌な予感しかしないので、途中で踵を返した。 「おい宇野」  手首を掴まれると、頭に血がのぼる。  謝罪でもしてくれるかと思っていたのに、期待はずれだった。 「触るな」  鷹城はふいに顔を近づけてきて、気づいた時にはキスされていた。  人はいないが広い廊下だ。どこからでも見える。 「鷹城、やめ……」  俺が離れようとすると、今度は乱暴に二の腕をつかむ。壁際に追い詰められ、今度は舌まで入ってきた。何度も肩を叩く。  顔を離した鷹城は無表情で言った。 「俺はここでしてもいいけど」 「は……」 「困るのは宇野のほうだろ。……来いよ」  そう言って鷹城は、先に歩いて行ってしまう。
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