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 このまま帰っても良かったが……、話をつけないとならないだろう。俺は鷹城のあとに付いていった。トイレのドアを閉めると、俺は言う。 「鷹城って……、女も男も両方って趣味なの? 俺、言っとくけど全く、興味ないし、そもそもおまえのこと嫌いだし」  鷹城は洗面台に寄りかかり腕組みをして、ただじっとこっちを見ているだけだった。 「ほんと困るんだ。こういうの……。この間あれ……、したら、もう付きまとわないって約束しただろ。覚えてないのか」 「その、付きまとうって言いかた、ムカつくんだけど……」 「……本当のことだろ」 「おまえってほんと、苛々する」 「そうなんだ、俺も同じ。じゃあやっぱり、お互いのためにも関わらないでおいたほうが」 「おまえのフェラ、結構良かったんだよな。またやって」  怒りなのか、羞恥なのか……、よくわからない感情に胃のあたりがカッと熱くなる。 「ほんっと……、自分勝手だな」  俺は鷹城を睨みつけた後、ドアノブに手をかけ、外へ出ようとした。すると、腹へ手が伸びてきて、後ろに引き戻される。なんとか逃れようともがくが、そのまま引きずられるように個室へ連れ込まれた。 「おい……!」 「別にいいだろ。減るもんじゃねーし」  また唇が近づいてきて合わさり、思いきり股間を掴まれた。そこを荒く揺さぶられると、何も感じないというわけにはいかない。身体が震える。香水の匂いがした。 「自分で弄るより、このほうが気持ちいいだろ?」 「やめろ」 「あれ、もう勃起してんじゃん」  鷹城はクスクスと笑う。 「ほんと、体は正直だな」  それからだった。  頻繁に旧講堂のトイレに連れ込まれ、身体を触られるようになった。  謝りたいと殊勝な態度のときもあれば、強引に誘われるときもある。  鷹城に身体を触られるのが気持ちいいと気づいてしまってから、本気では抵抗できなくなっていた。なにしろ性欲は有り余っている。 「あ、っ、んっ……」 「気持ちいいだろ。なぁ……」  鷹城はこちらの身体を触ってくるだけ。  何が楽しいのか、いつも便器に座って俺を膝上に乗せ、後ろから抱きしめる。首筋に幾度かキスをして、太腿や腹を執拗に撫でさすり、固くなった雄を丁寧に扱いてくれるのだった。 「先っぽ、良いんだろ……。もう先走りで、ぬるぬるだな。期待してんの?」  亀頭のあたりを指先でゆっくりと責められ、もどかしくて俺は泣きそうになっていた。感じるなというほうが無理だろう。 「や、やだ……」 「おまえの声って、ほんとエロいよな……。すげえ腰にくる」  先程から、熱く張り詰めた鷹城の雄を、尻の下に感じていた。  手淫は自分でやるより数倍気持ちが良かったし、不思議なことに鷹城はそれ以上を求めてこないこともわかった。  口での奉仕も、頼んではくるが俺が拒否するとあっさり諦める。鷹城はだいたい、俺を見ながら自ら扱いて達するのだった。  キスも最初は気持ち悪いと感じたが、次第に慣れた。身体を舐められることもそうだ。  不本意だったが、鷹城の手の熱さも、今では心地よく感じるようになり、喘ぎ声も漏らすようになってしまった……。 「あ、あっ……ん、や」 「もうイきたいか? 」  否定するように首を左右に振ったが、手の動きは速くなる。 「や、や……、もうっ」   俺は達する瞬間の顔を見せないようにと、俯いてなんとか歯を食いしばる。そんな時に限って、鷹城は顎をつかんで無理やり上を向かせ、深いキスをしようとしてくるのだ。もちろん扱きは激しくなっていく。 「んっ! ん……んぅ」  大きな声は漏れなくとも、射精の瞬間に咥内を犯されているという事実が、耐え難いほど恥ずかしく、いつも顔が熱くなってしまう。  尻に鷹城のものを突っ込まれるよりは、ずいぶんマシな行為だと考えていたが、これはこれで嫌なものだった。途中何度も鷹城と目が合いそうになる。  二人とも終わって衣服を整えた後でも、鷹城は気だるそうに抱きついてくることがある。俺はその腕からなんとか逃れて、個室の外へ出る。  いつも行為後は、いいようにされてしまった悔しさと、自分への情けなさで、胸の中がドロドロになっていて、気分が悪い。  俺は矛盾を感じながらも、鷹城との変な関係を断ち切ることが出来なかった。  逆上され、学校にバラされて困るのはやっぱり俺のほうだ。  しかしもちろん、問題もあった。  行為を断りきれず、居酒屋のバイトに遅刻するようになった。今月だけで四回あった。  店長に、もう次はないと言われていた。
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