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 今日はバイトがない。  だからといって、鷹城に付き合う義理はどこにもない。  勉強もしたかったし、先月図書館で借りた文庫本は、まだ半分も読めていなかった。部屋の掃除もしたい。なぜか分からないが、鷹城とこういう関係が始まってから、アパートの部屋は荒れる一方だった。片付いた状態が維持できないのだ。  最近、友達は誘ってくれない。ボロを出しそうで、自分からもなかなか話しかけられない。  移動の時や休み時間には、どこからともなく鷹城が現れる。鷹城は死ぬほど外面がよく社交的だった。なので、もともとの俺を知らない人から見れば、俺達はただの友人に見えるかもしれない。  夕方。俺は今日も旧講堂の男子トイレにいた。  便器に手をつき、膝までズボンを下ろされ、後方に突き出した俺の尻には、鷹城の顔が密着していた。尻の割れ目を下にたどって、そこにあるくぼみ。鷹城は、それを熱心に舐めているのだった。 「ん、あ……、あ」 「気持ちいいか?」 「恥ずかしいよ……」 「あっそ」  鷹城の声は笑っている。  近頃では、鷹城になんのメリットがあるのだろうと、そればかり考えるようになった。  動機のほとんどは俺を苛めること……。それと、一割ぐらいは性的なフェチなのではないかと思う。  もとから男が好きなのかと訊いたら、そうではないと言っていた。  ますますわけが分からなかった。俺の尻穴を舐めることで興奮するというのは、理解しがたかった。 「あぁっ」  舌が無理やり中にねじ込まれようとして、俺は震えた。 「鷹城っ……、やめて」 「じっとして」  くちゅくちゅと卑猥な音が辺りに響いていた。 「ん、ん……、あ」  そのうち陰嚢をそっと握られる。やわやわと揉まれ、思わず身体をのけ反らせる。 「宇野ってなんか、部活やってた? 細いけど、体しっかりしてるよな」 「……サッカー」 「高校まで?」 「中学で……」 「ふーん」  なんで今こんな話をしなければならないのだ。 「うっ、あっ……」  今度は尻の膨らみにキスをしてくる。唇で肉をはみ、ベロベロと舐めてくる。 「なぁ……、指入れてもいい?」  そう訊いてきた次の瞬間には、異物が肛門に押し込まれていた。おそらく、鷹城の指なのだろう……。意外と温かかった。俺は息を詰めた。 「無理、出せって」 「なあ、前立腺ていうの? 気持ちいいっていうじゃん。こうやって探して、わかるもんかな」 「もうやめろって。尻舐めてもいいから……」  指を突っ込まれるよりは、いくらかマシだ。  鷹城の指が、ゆっくりと探るように内壁を擦っていく。むず痒くて、落ち着かない感触だった。その愛撫は長く続いた。中を押し広げるように……、掻きだすように、時にはピストン運動のように指が抜き差しされる。 「や……」 「どんな感じ?」 「最悪、気持ち悪……あ、あっ、やっ!」  途中、鷹城の指先がどこかを引っ掻いて……、頭が真っ白になる。つま先まで、快感が駆け抜けたような気がした。思わず身を震わせる。 「ここ、気持ちいいのか?」 「違う、まじで、やめてもう」  腰から下がじんじんと疼く。鷹城の指は、また同じあたりを探った。足から力が抜け、うまく姿勢を保てない。 「や、やだ、鷹城もうやめて、お願い……」 「ほら、ちゃんと尻こっちに向けろよ。やりにくいだろ」 「あ、あっ……ん、ん、無理、もう無理だから!」 「宇野、くち」  そう言われ反射的に横を向いてしまうと、思いきり唇を奪われる。いつのまにか、鷹城が背に覆いかぶさっていた。かなり不自然な姿勢だったが、ぐいぐいと舌が入ってくる。ああまた射精の瞬間にキスしていたいのだろうかと、俺は呆れた。  終わったあとはいつも以上にぐったりしていた。腰はだるかったし、個室を出ようとしたら腕を掴まれ、鷹城の自慰を見せつけられた。  別々に帰ったのだが駅で鉢合う。鷹城は夕飯を奢ってくれると言った。俺は腹が空いていたので、話に乗ってしまった。  回転寿司に行き、遠慮のかけらもなく皿をとった。食事中に顔をジロジロ観察されることも最近では慣れてしまっていた。  俺が鷹城の頬を殴りつけたのは、その翌週同じ個室でだった。
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