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「ヒス起こして乗り込んでくるあなたが面白くってつい、誇張した。……あなたの心配するようなことは無い。安心して」
「優しい子やね、あんたは……」
いやにドライに言い切る彼を見つめ彼女は言う。
「本当に優しい人間なら、最初から嘘なんかつかないよ」
応えず、彼女はホットミルクを飲み干した。
最後につくのと、どちらが優しいのだろう。
「――完食してるけど、気分どうよ。……吐きそうになってない?」
「大丈夫やよ」カップを傾け、彼女は笑った。「いぃつも気分悪なるわけやないし。たまに、なが……」
「うんよかった。なんか、あなた、眠そうな顔してる」
思えば、長い一日だった。
爽快に始まる予定の休日が、退屈を知り、慟哭を味わい、いまは、――
平穏のただなか。
風に凪ぐ帆を感じる小舟のような。
「歯ぁ磨いて、寝よっか」
空の彼女のマグカップを取り、少年は笑った。
妹が欲しいと言った。
できるよと母は答えた。
もうすぐ、もうすぐよ――と、
ひとりきりでお父さんのほとんどいない家庭。
しかもお母さんは血の繋がりが無い。
周りからどう思われているのか、知っている。
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