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Chapter.1
運命の出会いは、二度あった。
ありきたりだった日常が、風景が、変わっていく。おだやかに、ゆるやかに。
ともすれば、気付かないほどに。
それでももう、気付いたときには彼女なしの人生は考えられなかった。なのに。
考えたくもなかった“そのとき”は、予想だにしない速さで二人の間に訪れた。
彼女の言う“運命の人”。
俺にとって、それはキミだよ。そう言えなかった自分をずっと責めていた。伝えていたら、その先に待つ運命が変わっていたかも、などとは思っていない。それでも。
言わなかったこと、言えなかったこと。
小さな後悔たちは降り積もり、積み重なって自戒へと変わっていく。
次なんてない、次なんていらない。そう思いながら、頭のどこかで考える。
――次は、こんなことにならないように――。
無意識な“未来への期待”が、彼女のいないこの世界を際立たせ、それに気付いた俺に絶望をもたらす。
仕事をしていても、街を歩いていても、ふとした気配に振り返っては瞼を伏せる。そこに彼女がいることは、絶対にないとわかっているのに。
二人が出会わなければこんな苦しむことはなかったのではないか。彼女だって、いまもどこかで元気に暮らしていたのではないか。
考えても仕方のない仮想の話は、自分の意思と関係なく脳内に再生される。
そしてそのときに浮かぶ感情すら、仕事に活かせるのではと考えてしまう自分に嫌気がさす。
そんな日々の中で、陽だまりの暖かさを持つキミに出会ったのは、紛れもない、“二度目の運命”だった。
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