超絶イケメンの神様とデキ婚したらとんでもない生活が待っていた話

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超絶イケメンの神様とデキ婚したらとんでもない生活が待っていた話

日本では地域ごとに神が存在する 某所の護り神はとても美しい男性だった。 見るからに神々しく、肉体はほどよく屈強で、大概の女性ならば一目で虜になるだろう。 彼の世話係の一人に、「ヨネ」という天界の女性がいた。 利発ながら控え目で、神に仕えるに相応しい者であった。 神はヨネにいつしか恋心を抱き、そして… 身分の違いを超え、男女の仲となる。 ほどなくヨネは妊娠。 しかし身分の違いにより、婚姻は不可能らしい。 神は自分より更に上の身分の神に掛け合い、事情を説明した。 「ふむ、ヨネと一緒になりたいと… ならば人間界で、腹の子と共に「人間」として暮らすのだ。」 神とヨネの心は一つだった。 例え地獄行きになっても愛し合うという約束をした二人に、断るという選択肢はなかった。 「よろしい。 そなた等には身分と家を与える。 達者で暮らすが良い…」 そして二人は人間として転生するーーー ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ ああ、ヨネは……… 一生この方にお仕えいたします……… ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ ーーー1年○ヶ月後 「オンギャァアア!ホンギャァアア!」 「あーーなーーたーーー!あなたってば!!!! 神介(しんすけ)のミルクお願いって言ってるでしょ!!私はパート行かなきゃなんないのよぉお!!! それと保育園送って行ってね!バイトも遅れないように!!!わかった?!わかったら返事!!!」 ヨネ……神谷米子は25歳の主婦として現世に転生した。 神に仕えし者であった頃とは程遠い、まるでレディコミの苦労主婦を絵に描いたような風貌となっている。 そして、どう見ても神とは立場が逆転していた。 「ああ、行ってくるが良い。ほら神介、ミル…グホッッ…!!!」 「ごめん狭いから頭にヒザ当たっちゃった!!ゴミ出しも忘れないでね!!じゃ!!」 「………」 ドアがバタンと締まる音がする。 神……神谷神男は30歳のフリーターとして現世に転生した。 神であった頃とは………もう見る影もない、ただのオッサンとなっていた。 与えられた家は、築45年のボロアパート。もちろん家賃は毎月払っている。 歩くたびにあちこちがギシギシいっており、気をつけないと先程のようにプロレス技が飛び交う。 「ふぇえ…」 二人の間に産まれた息子の神介は既に1歳となり、保育園に通っている。 子はかすがいというが、彼らの唯一の癒やしである。 「神介、ミルク飲んだか?よーしいい子だ。 保育園行こうな、おっとゴミ出し忘れるとこだった…」 神男は家中のゴミを専用袋に集め、神介を連れて家を出た。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「あら、早いね!」 「おはようございます大家さん…」 神男がゴミを捨てていると、アパートの前の掃除をしていた70過ぎの老女に会った。 彼女は大家と管理人を兼ね、このアパートを取り仕切っている。 「あ、神谷さんねェ!この前燃えるゴミん中にプラゴミ入ってたからね!気をつけてね!!」 「す、すみません!」 「それとね!アンタん家から時々ギッコンバッタン煩いって苦情が来てんだ!ウチの壁が薄いって手前あんまり言いたかなかったけどね! あ、それとね!!!大事なことなんだけど!!!」 「あぁっ、すみませんー!急いでるので!」 「待たんかいコラ!!!!!」 どう考えても話が長引きそうなので神男はママチャリを出してその場を脱出した。 (壁の音はアレだな…ヨネが我にヒス起こして壁殴ってる音だよな…注意をするとまた怒られそうだし止めさせないとまたあの大家のバーサンに怒られるし…… 嗚呼…詰んだわこれ) ママチャリを飛ばしながら保育園へ向かう。 保育園ではママさんたちから「相変わらずイクメンねぇ」などと持て囃され、少しだけ気分を良くして職場の工場へと向かった。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「はい、2980円です、ありがとうございました!」 米子のパート先はスーパーで、レジを打っていた。 人間界に転生した時に一番苦労したのが「人間界の常識を学ぶこと」である。 上の神から与えられた物は、家と、最低限の家財と服、僅かな金、そして「人間界マニュアル」であった。 マニュアル本はとても分厚く、小1〜中学レベルの教材とセットになっていた。 そこでまず、「金」の使い方と増やし方を知る。 人間は働いて日銭を稼ぎ、雨をしのぎ、腹を満たす。 天界とは比べ物にならないようなボロな住処でも金は毎月支払う必要があることを知った。 …まぁ、自ら払わずともあの鬼ババの大家が毎月取り立てに来るのだが。 それからありとあらゆることを学んだ。 電化製品や家具などの使い方。 近所とのコミュニケーション。 お腹の子のために役所で母子手帳を貰うこと、(身分は元々与えられてたために手続きはスムーズだった) 病院で定期検診を受け、医師の指示に従うこと。 人間の赤ちゃんが産まれてからの育て方。 そして婦人服にはしま○ら、ベビー用品は西○屋がお手頃…等々。 二人はアパートでそれらを一通り頭に入れ、それなりに人間らしく振る舞うことができた。 時々周りから「???」と思われているようだが。 日銭の稼ぎ方として、神男はハ○ーワークへ行き、そこで工場の検品作業の仕事を斡旋されて今もそこで働いている。 僅かな給金だったが、何とか家族を食べさせる金にはなった。 幸い米子は安産で、特に支障なく出産まで成し遂げられた。 神男は「ヒトの誕生」、何よりも「自分の子の誕生」に感動して号泣し、米子は疲労でグッタリしているというのに煩さに眠れなかった。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ パートの昼休み中、米子はスーパーの見切り品のおにぎりを食べながら古雑誌を読んでいた。 芸能人の不倫、皇族のウワサ話などの時事問題は大体網羅し、完全にその辺の主婦である。 (あの人、ちゃんと仕事やってるかな…神介は保育園でゴネてないかな… あー昨日は言い過ぎたかな、壁殴っちゃったし…) 子育てや夫へのイライラは毎日で、喧嘩(というより一方的な激怒)は毎日だった。 憧れていたあの「神」は…どこに行ってしまったのだろう。 (私は身分に惚れていたのかな…? パートはキツいし周りのオバチャンたちは煩いしもう疲れちゃったよ… でも神介連れて離婚なんてしたら、……神罰??) 恐ろしさに背中がゾゾッとし、体が震えた。 「神谷さん!そろそろ休憩終わりよー!」 「あっ!はい!」 はっと我に返り、休憩室を出ようとした際、 壁にかかるカレンダーに何となく目を遣った。 (あれ、今日って……) ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「だーーーかーーらーーさーー!!!神谷さんね??この仕事もう1年以上やってるよね???何回同じ間違いすればいいのかな???」 「すまぬ…いや、すみません…」 神男は毎日のように工場長に怒られていた。 無理もない、何百年も仕事などやったことがないし、そもそも人間2年目だ。 「全く、「神谷神男」なんて立派な名前の割にさァ……神様にでもなったつもりなのかね?!」 (というか神だったんですけど…) 家では男として、職場では仕事人としてもうだつが上がらず、もう自分は何者なのかわからなくなってきた。 「求人出しても人が来ないからこの不景気に雇ってるけどね!普通ならクビだクビ!」 ケッ!と、タオルを投げ捨てて工場長はその場を去り、神男は作業を再開した。 (あー、工場長(コイツ)に神罰与えてぇー…でも我人間だし…) などと考えていると、横からトントンと肩を叩かれた。 「神谷サン、工場長(アイツ)の言うことなんて気にしなくていいッスよ…大きな声で言えないけど、またお見合い失敗したみたいでさァ…あの顔と性格じゃそもそも女にモテないっつの。 大方、奥さんとお子さんが居る神谷サンに嫉妬してンでしょ…」 この男は神男と一番話す同僚だ。 高卒で家を出て働いているらしく、付き合ってる彼女とは順調らしい。 「羨ましいなァ神谷さん…俺も早く結婚したいッスよ。」 「結婚ねぇ…してもいいことないよ… あぁ、避妊には気をつけてね。逃げられなくなるから…」 同僚の男は反論しようとするが、これ以上神男の話を聞いていると気が重くなりそうなのでこの辺で切り上げることにした。 「ま、まぁ幸せのカタチは人それぞれッスね…。 あ、それよか今日って○月○日じゃないッスか!作業明日までに終わらせないと!」 (ん、○月○日………って) 神男は何かに気づくと、作業の手を早めた。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 米子はパートと買い物の帰りに、神介の保育園のお迎えに向かっていた。 買い物が思いのほか長引いてしまい、いつもより迎えが少し遅くなってしまったが、何とか時間内に保育園へと着くことが出来た。 「お世話になりました!ありがとうございます!」 「神介くん、今日も凄くいい子でしたよ! あ、神谷さん…ちょっといいですか?」 米子は神介の担当の保育士に呼び止められ、きょとんと目を丸くした。 「私、長年保育士やってるんですけど…何か神介くんって他の子とちょっと違う気がするんですよね…」 「えぇっ、それって発達が遅れてるとかそういう??」 (ほぼ無学に近い私たち両親に育てられて、神介に影響が出てしまったの…?) 「ああ違います違います! 何というか…表現しづらいのですが、他の子と違って神々しいというか……もしかして誰か凄い人の生まれかわりかなとか。 私自身特にオカルトとか信じてないし、あんまり言うと贔屓になってしまいそうなので大きな声では言えないんですけど…」 「そう、見えますか…」 腐っても神の子ということか。 わかる人にはわかるのね……と、米子は思わず噴き出してしまった。 「ふふ、ありがとうございます。夫に伝えておきますね。 また明日よろしくお願いします、さようなら!」 「突然すみませんでした。 さよなら!お気をつけて!」 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 米子と神介はアパートに着いて、テーブルに買い物袋を置いた。 「神介〜おてて洗おうね〜♪今日はすき焼きだよ〜♪」 神介の手洗いや着替えを済ませ、夕食の準備に取り掛かる。 窓の隙間から美味しそうな匂いが漏れている。 グツグツと鍋が煮立つ小気味よい音をかき消すように、ドアをガンガンと叩く音がした。 「神谷さん!美味しそうな匂いさせてるね!御馳走の前に家賃だよ!やーちーん!!」 (げっ…大家のおばあちゃん…) 「い、今開けまーす!」 米子も大家は苦手である。 得意な人もいないであろうが。 「ごめんなさい、夫が今月分払ってませんでした?」 「はぁっ?なぁに寝ぼけたこと言ってんだい!1円だって貰ってないよ!!! 今朝アンタんとこのね、ダンナにそのこと話そうとしたらね!逃げられたんだよ!!! 嘘だと思うなら領収書見てみな、ないから」 米子は戸棚の書類入れを見てみたが、確かに今月分の領収書がない。 「すみません…テーブルの上に夫にこれ家賃って言ってお金置いといたんですが……どこいったかなあのお金… もしかして泥棒?!」 「ぁあん??じじょーは何でもいいんだよ!早く家賃払いな!」 「くぅ…!!」 米子は泣く泣くサイフから金を取り出すと、大家はそれを引ったくってドアをバタンと締めて帰っていった。 (後であのお金探さないと…!!あーもーー!! 置いたつもりで置いてなかったかな…もーわかんない!!) ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 30分ほど経ち、神男が帰ってきた。 「ただいま…ほぅ、今日はすき焼きか…」 作業着から部屋着に着替え、手洗いうがいを済ませる。 何やら今日は荷物が沢山だ。 「お帰りなさい。だって今日は「あの日」でしょ… 冷蔵庫にビールも冷えてるわ。」 「勿論覚えてる、ほら。 今日は人間界でいう…結婚記念日だろう?」 神男は大きな花束と、プレゼントを米子に渡した。 「あな、た……」 そして、米子の前に跪いた。 「米子…いや、ヨネ…… この2年間、何も出来ぬ我によく耐えてくれた… そして沢山怒らせてすまない… それから何より…神介を産んでくれてありがとう… 神だの何だのとチヤホヤされ、天界では偉そうにしていた。 だが、肩書きを取ればうだつの上がらぬただの男だということに気づかされたのだ… こんな我だがこれからも…ずっと側に居てほしい…」 「…………」 米子は大粒の涙を流し、神男に抱きついた。 「私こそごめんなさい!ごめんなさい! あなたは身分も何もかも捨てて私と一緒になることを選んでくれたのに、私は目先の生活が精一杯でいつも怒鳴ってばかり! 私ね、人間界(この世界)に来たときに誓ったの!どんな時もあなたに尽して、そして、一生神(あなた)に仕える…って。」 「ヨネ…」 「だけどいざ人間界で暮らしてみれば、私はただの余裕のない女だった!人間界には男女の喧嘩があるとか、女は夫にヒステリックになるとか、子育てでイライラするとか、そんなの私には関係ないと思ってたのに…!!」 「いいんだ、我がしっかりしていれば、ヨネはもっと穏やかに過ごせたものを…」 二人はキツく抱きしめ合い、そして、久方ぶりの接吻をした。 「ヨネ…これを…」 神男はプレゼントの蓋を開ける。 中には、ペアリングが入っていた。 「ずっと、指輪も買えなかったろう? 今は経済的にもまだ無理だが…いつか結婚指輪を買おう。 そして、出来れば式も挙げたい……何年かかっても……」 「嬉しい…」 二人は可愛らしいリングを左手の薬指にはめ、ニコリと笑った。 天界の優雅な暮らしから、絵に描いたような貧乏生活へ。 だが天界に居たままでは、この幸せは感じることができなかっただろう。 「私、幸せです… これからもおそばに置いてくださいませ… 一生お仕え致します……」 「ああ、勿論だ… だが我はもう、神でも何でもない。 対等に、そして仲良く三人で暮らしていこう…」 「はい…」 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「ところで、この指輪、どうやってお金工面して買ったの?」 「え、テーブルのお金…我の小遣い……ではなかったのか?」 「はぁあ?!あれは今月分の家賃だよ!!こンの……」 バ カ ヤ ロ ォ オ オ オ オ オ オ !!!!! この後騒音と開いた壁の穴で、大家からこっぴどく怒られたのは言うまでもない。 END
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