気まぐれ猫と映画の日

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「かえでちゃん!みかはトライアングルだよ!」 紙に向かっていた楓の視線が上がる。 その時確かに楓は、背筋が凍るほどに冷ややかな目で美香を一瞥した。美香という人間を、卑しい下品な者として心の底から軽蔑しているのだと鮮烈に理解させられる目だった。 美香も周囲の人間も気付かないほど一瞬だった。 ちらりと見えた人間の性質は、私の瞬きの間に元の色に塗り替えられる。再び私の目に映る楓は、いつもの穏やかな表情を称えていた。 楓は優しげな口調で言う。 「何言ってるの?トライアングルはみさとちゃんだよ?」 私の身体を支えている骨同士が、震えによってカタカタとぶつかる音が聞こえてきそうなほど、この優しい声が恐ろしくてしょうがなかった。 驚きで言葉を失った美香を無視して、楓は私の目をじっとみてくる。そして、蕾がほころぶように微笑んだ。 「みさとちゃんなら一番上手に出来そう!なんだか似合ってるし、向いてると思う!一緒にがんばろうね」
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