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暫くして沈黙を破るように優しい女子たちが楓に近寄り、大丈夫?と声をかける。
「大丈夫だよ、びっくりして転んじゃっただけ。ケガも少し擦れただけだから」
微笑みを浮かべる楓に皆安心したようで、音楽室の空気が和らぐ。
「みかちゃんどうしちゃったんだろうね」
「ひどいね、あんなことするなんて」
皆一様に、そう口を開く。
けれど私の身体はぎゅう、と締め付けられたまま。息苦しくて、心臓の音がドクンドクンと聞こえてくる。
そう、美香は反射的に楓の手を払っただけ。
大袈裟に倒れ込んだのは楓だ。
詩織先生だって、皆だって、見ていたのに気付かなかったのか。いや、絶対に気付いたはずだ。
ーーならば何故?
子供の心はいとも簡単に移ろうもので、先生が居なくなった音楽室は、まるで指揮者のいない演奏会のように乱雑な音に溢れ、混沌としていた。
立ち尽くす私と楓の目が合う。
相変わらず楓の顔には微笑みが張り付いていた。
「ねぇ、みさとちゃんーー」
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