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ほんもの女子の束砂さん、更紗さん、はろんさんは、火起こしとテントが張れるまでやることがないので、薫蘭風ちゃんの実家の台所でおやつ作りをするそうだ。
俺は薫蘭風ちゃんと一緒に川に行き、のんびりと釣りをする。
「鮎がいいなぁ」
「薫蘭風ちゃんって生活力高いよね?釣りもそうだけど、ジビエ料理したりさぁ」
いまは俺らに飼われている猪さんたちも一歩間違えば料理されていた。
「うん。昔から山駆け回ってたし。本当はテントも一人で張れるし、火起こしも得意。飯ごうのご飯も上手に炊けるよ。お父さんとよく一緒にやってたから」
「そういえば薫蘭風ちゃんのお父さんって見たことないけど?」
「まぁおばさんと一緒だと無理だね。妹の旦那なんて親の敵だからね。おばさんが来るときは海外に逃げてるよ。喧嘩になるから」
伊織先生めんどくさい。マジで思った。
釣り糸にひきがあった。俺が釣り上げるといきのいい鮎がかかっていた。薫蘭風ちゃんはひきがあり、そちらも鮎だった。そこから入れ食いで俺たちは次々に魚を釣り上げる。
「すごい!大量!」
薫蘭風ちゃんが声をあげた後ろでガサリと音がする。
「待てーー!!」
後ろを振り向くと虫網を持ったうたうものさんと五丁目さんが走り回っている。
あれ?食材調達に行ってたんじゃ?
「二人とも何してるの?」
「あ。瑠璃くん!お邪魔しちゃったね。食材調達終わったから蝶々追ってるのさ」
うたうものさんがふふんと鼻を鳴らし、五丁目さんがくいと眼鏡を指であげる。
「捕まえる気はないけど、追っかけるのは楽しいからね。では、瑠璃くん、邪魔したね」
うたうものさんと五丁目さんは森に消えていく。なんで邪魔したと言われたんだろう?
俺らは大量の魚を釣り上げてからキャンプに戻る。もうテントは出来上がり、火起こしも終わり、バーベキューの準備もできていた。フルーツなんかも揃っていて、薫蘭風ちゃんのお母さんが畑から取ってきたらしい。みんなでおしゃべりしていたようだが、その脇で伊織先生が地面に寝っ転がりいじけていた。
「なんで、こんな年になって妹にお尻ぺんぺんされなきゃならないのさー。されるよりなら私はしたいほうなのにーー」
ああいうのは無視するに限る。情報を薫蘭風ちゃんのお母さんにリークしているアッキー&マッキーは素知らぬ顔でおしゃべりしている。
その横で親父と香多くんのバトルも続いていた。
「だから僕と同じテントで寝ようよ!僕、おじさまとおしゃべりしたーい!」
「いや。私は瑠璃と一緒のテントが……」
「僕のこと、嫌いなの?」
「そんなことはないから!」
あれも無視するに限る案件だ。日もいい感じに暮れてきて、バーベキューが始まる。
俺が薫蘭風ちゃんと並んで焼いた鮎をかじっていると俺の隣に薫蘭風ちゃんのお母さんが座った。
「瑠璃くん、頑張ってるね。薫蘭風からいつも聞いてるよ」
「ありがとうございます」
何気なく俺は答えたが薫蘭風ちゃんのお母さんは気にせずに続ける。
「あの子、電話もメールも瑠璃くんの話ばかり。さすが瑠璃くんの追っかけだけあるわ」
「お母さん、恥ずかしいからの!」
薫蘭風ちゃんがちょっとむきになったところで五丁目さんの声が響いた。
「みんな静かに!」
しんと静まる。俺たちの目に光が映る。
「あら蛍」
薫蘭風ちゃんのお母さんが呟いた。みんなの様子を見るとみんな蛍に見入っていた。特にうたうものさんと五丁目さんの目が真剣。
「大勢で見る蛍はいいものね」
そう言った薫蘭風ちゃんのお母さんは小さく呟く。
「追いかけるのも楽しいだろうけど、捕まえるともっと楽しいのよね」
うたうものさんと五丁目さんとは反対のことを言うなぁと思いつつ、またおしゃべりをはじめる。
「なんで私は一人テントなんだ!?」
伊織先生が騒ぎ出した。
「私にテント内でお尻ぺんぺんされたい奴はいないのか!?」
いないだろう。
「おじさま、僕と!」
「いやいやいや。私は瑠璃と!」
香多くんと親父のバトル再開。
「私は良くんと同じテントで」
「当たり前じゃん。タッくーん!」
いくつか立てられたテントで誰と誰が同じテントに入るかの話になった。
「瑠璃くんは薫蘭風と一緒にする?」
俺の顔は薫蘭風ちゃんのお母さんの一言で真っ赤になる。
「お、お、お、親父と一緒にします!」
「あら残念」
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