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[夏の流星雨から始まるエトセトラ]
夜の静寂に包まれる中、まるで世界に自分だけのような錯覚を覚える。それもそのはず、俺はド田舎のひらけた草の絨毯の上にいるのだ。車も人も全く通らないうえ民家はほとんどない。
静寂以外には、道を示す柔い明かりを灯す電灯、夏を主張する虫たちの声、頭上の煌々たる星々のみである。
俺は缶ビールを片手に深いため息。
「なんでこうなっちゃったのかな、俺って弱いのかなーー」
俺は静岡県で生まれ育った。しかしなんとなく田舎者という感じが嫌で、意を決して都内の大学に進学。東京で一人暮らしを始め、地元では得られなかったであろういまを謳歌するようにキャンパスライフを送った。
その後、晴れて都内の一流企業に採用。当時はやる気に満ち溢れた絶好調の時であり有頂天だった。順風満帆と言える人生航路を進んでいたわけだ。
しかし就職後、早くも航路の瓦解せる音が響き始めた。当時、採用段階で言われなかったことが次々と噴出したのだ。
それは月に150時間を超える異常なまでの残業やあからさまなパワハラなど。1年以内に同期の半分は退職してしまった。
俺は2年働いた後、度重なる体調不良により勤怠状況が悪化、周囲に勧められる形で退職することとなった。
現在は実家へ戻り、近くのスーパーでバイトをしながら過ごしている。何に対してもやる気が起きなく、次の一歩を踏み出せないでいる中、
ニュースでは百年に一度の流星雨が現れると報じられた。そして今日がその観測日。予報ではそろそろ出現するらしい。
(都心にいた時も、綺麗に流れ星が観測できるなんて盛り上がっていた時があったけど、それどころじゃ無かったよな。少しは気にして見てみたけど……。
あの時持ってたものは夢ではなく、極度の疲労と同世代にしては多い給料、あとは拾った猫ぐらいだったな。
あ、そういえばあの猫……今どうしてるかなぁ)
やがて深海のごとく深さを思わせる濃紺の空には、颯爽と過行く光の筋が顕現した。まるで一つ一つが何かの目的を持ちどこかへ向かっているような迷いない姿。それは迷いに満ち溢れた自分との画然たる差異を感じさせた。
静かに見とれながら草の絨毯の上に座り込んだままビールを一口煽る。
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