第3話『天使降臨』

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第3話『天使降臨』

クラスメイトに新しく死神が加わってから、数日。 それは教室での、亜矢の親友・美保との会話から始まった。 「ねえ、亜矢ってグリアくんの事が好きなの?」 その言葉に、亜矢は思わずブっと吹き出しそうになった。 いや、別に何かを飲んでいる最中ではないのだが。 「ち、違うわよ!何言い出すのよ美保!?」 亜矢の反応の大きさに対し、美保はキョトンとしている。 「だって、いつも一緒にいるじゃない?今日も朝、一緒に登校してたみたいだし…」 (一緒にいるんじゃないの、あいつが付きまとってるだけ!) と心の中で本音を叫ぶが、これ以上、事情をややこしくしたくないと思った。 「ホ、ホラ、あいつはあたしの隣の部屋に住んでいるじゃない?だから、行きも帰りもたまたま一緒になる事が多いだけよ!」 焦って早口になりつつ、それらしい理由でごまかした。 だが、美保はそれを聞いて満面の笑みを浮かべたのだ。 「そっか、じゃあ安心!」 えっ、と亜矢は美保の顔を見返した。 「安心って何よ美保?」 「うん、決めた!美保、グリアくんに告白するわ!!」 「……………」 亜矢は目を見開いたまま固まっている。 言葉が出ないというか、驚きの次に感じたのは大きな不安。 「美保………あいつは、やめといた方がいいわ…」 「え〜何で?あんなにカッコいい人、今までに会った事がないもん!」 確かに、グリアは一見すると普通にカッコイイだろう。 だが、亜矢が知る彼の正体、内面は鬼や悪魔に近い。 そもそも彼は人間ではないのだ。 色々考えても、彼に近付いても何事も良い方向に向かう訳がない。 第一、自分がそうなのだ。 (はぁ……でも、本気なのよね、美保は。どうしよう…) 親友の事を応援したいのは確かだが、これ以上死神に関わらせたくない。 説得した所で、美保がグリアの事を諦める性格でない事も知っている。 複雑な気持ちを胸に、気合いいっぱいの美保に向かって亜矢は作り笑いをした。 「ねえ、美保の事って、どう思う?」 「ああ?」 昼休み、亜矢はグリアに単刀直入に聞いてみた。 わざわざ人気のない所を選んで、亜矢とグリアは並んで座り、昼食。 相変わらず、亜矢にパシリさせて買わせたおにぎりを頬張りながら、グリアは気の抜けた返事を返した。 「ホラ、いつもあたしと一緒にいる、髪の長い……」 「ああ、あいつな。そいつがどうした?」 こんな事を聞いて、余計なおせっかいだって解ってる。でも—。 「いえ、どうしたっていうか……」 亜矢はそこで言葉を詰まらせた。 だが、グリアはそんな亜矢の心を読んだのか、僅かに目元が笑っている。 「あいつもなかなか美味そうな女だと思うぜ?」 「な、なに言ってっ…!!」 「だから、魂の話だって。なーに前と同じ反応してんだかなぁ、ハハハ!!」 「〜〜〜〜もういいわっ!!」 くだらない事で振り回され、本気で怒る気も失せた。 亜矢はフイっとそっぽを向いた。 そのまま、二人は沈黙。 いや、おかしい。 こんなに不自然な沈黙が続くなんて。 グリアは、いつも隙さえあれば亜矢をからかうような言動を起こすのに。 亜矢はふと、視線をグリアの方に向けた。 おにぎりを食べ終えたグリアは座ったまま顔を少しだけ伏せ、鋭い視線だけは上に向け、どこか虚空を見つめていた。 「どうしたのよ、あんたらしくない」 「嫌な感じがすんだよ」 「え?」 「どうやら、面倒な奴が来ちまったかもな」 グリアの言葉の意味が解らず、でもどこか真剣な顔のグリアに、亜矢も何故か緊張した。 「あんた以上に嫌な感じがする人なんていないと思うけど?」 いつものお返しとばかりに亜矢は皮肉を込めて言ったが、グリアの表情は変わらず。 「てめえ、今日の口移しはタダじゃ済まさねえぞ?」 「ちょっ!変な事したら噛むからね!?」 「へえ、オレ様に勝てると思ってんのか?」 口調だけはいつものグリアだった。 そして、下校の時間。 帰り道が一緒なのだから、不本意ながらいつも隣にグリアが歩いているのだが、今日はどうした事かグリアの姿がない。 何か今日のグリアはいつもと違うなぁ、と亜矢は少し不思議に思ったその時、前方に、制服姿に銀の髪。見慣れた後ろ姿があった。 (なあんだ、あいつ、先に歩いていたのね) 別に無視して歩き続けてもいいのだが、今日のらしくない彼の行動が気になり、小走りに前を歩く背中を追った。 「死神、今日はどうしたのよ一体……」 亜矢はそう言いながら彼の横に並び、顔を覗き込むと…… こちらに顔を向けたのは、グリアとは違う、穏やかな眼をした少年。 ちょっと驚いた様子で眼を丸くしていたが、すぐにクスっと笑いかけてきた。 「ボクは死神じゃないよ?」 亜矢はあっ!と思って足を止めた。 同時に、グリアに似たその少年も立ち止まる。 「ご、ごめんなさい、人違いだわ」 それにしても、この水色の髪、透き通るような青い瞳、白い肌。 グリア以外にも、こんな不思議な外見を持ち合わせる人がいたとは。 後ろ姿だけを見れば、グリアと見間違うのは無理もない。 しかも彼は、亜矢と同じ高校の制服を着ているのだ。 「君、亜矢ちゃんだよね?」 その突然の言葉に、亜矢は驚きと共に我にかえった。 「えっ?どうして、あたしの名前……」 「ボクは近々、君と同じ高校に通う事になるから、よろしくね」 「え、ええ……」 亜矢は力の抜けた声で返したが、彼の馴れ馴れしいとも言える口調も不思議と気にならない。 「じゃあ、また」 そう言うと、少年はゆっくりと歩き出し、道を曲がって行った。 亜矢はその場で立ち止まったまま、彼の通った道を見つめていた。 (転校生って事かしら?) それにしても、すでに制服を着て歩いていたのはどういう訳か。 ふと、少年の立っていた足元に白い羽根が一枚落ちている事に気が付いた。 だが、それは空気に溶け込むように、ゆっくりと消えていった。 マンションに辿り着くと、亜矢の部屋のドアの前にグリアが立っていた。 「人ん家の前で待ち伏せ?」 グリアの目の前に立ち、少し見上げて堂々たる態度で亜矢は言う。 「誰かに会ったか?」 「え?」 「帰り道、誰かに会ったかって聞いてんだよ」 突然何を言い出すのか、と亜矢は思ったが、ふとさっきの少年を思い出した。 「あなたによく似た人に会ったわ。あ、似てるとは言っても、あっちの彼は穏やかな雰囲気で、笑顔が優しい人だったけど」 こんな時でもちょっぴり皮肉を込めて亜矢は言うのだが、今のグリアは問題にはしていなかった。 「やっぱりな……」 「え、何深刻な顔してるの?」 亜矢の疑問をよそに、グリアは何か考え込んでいるようだった。 「こんなに早く見付かっちまうとはな」 亜矢には理解不能な言葉を漏らしつつ、次の瞬間、グリアは顔を上げた。 その顔には——いつもの、邪悪とも言える不敵な笑いを浮かべて。 「クク…、面白えじゃねえか」 もはや、これはグリアの独り言である。 亜矢は何となく嫌な予感がした。 自分の知らない何かがまた、動き始めている。 これからまた、想像もつかない何かが起きる、と。 次の日。 昨日のグリアの発言も気になるが、まずは美保の事である。 正直、相手が死神という事で素直に応援する気になれない。 むしろ、死神に近付く事によって美保が不幸な目に合ってしまうのではないかと、亜矢はそれが心配だ。 (無駄かもしれないけど……美保を説得してみよう) 昼休みになり、亜矢は美保を説得するべく彼女の元へ向かった。 だが、教室内に美保の姿が見当たらない。 亜矢はノートを取るのが遅れてチャイムが鳴って少ししてから席を立った。 どうやら美保は、先に教室を出てしまったようだ。 よく見れば、昼時になるといつも亜矢にたかり、パシリさせる死神の姿もない。 亜矢は何か胸騒ぎを感じ、急いで教室を出た。 校内のあちこちを探して回り、ついには校舎の外にまで出た。 予想通りだった。 校舎の裏、人気のない中庭に、美保とグリアの姿があった。 二人の姿を発見した亜矢は、とっさに物陰に隠れて二人の様子を見る。 「悪ぃが、オレ様はあんたに興味はねえよ」 どうやら、すでに美保がグリアに告白してしまった後の会話のようだ。 それにしても、あんな言い方はないだろう、と亜矢は物陰で一人腹を立てた。 「そんな……グリアくん、好きな人とかいるの?」 美保がそう聞いた瞬間、グリアの視線がふっと亜矢の方に向けられた。 すでに気付かれている。亜矢はその場所から鋭い視線をグリアに返した。 美保に対しては背中、後ろの方の位置にいる為、美保には気付かれてない。 「興味のあるヤツはいるな」 そう言うなり、グリアは歩きだし、美保の横を通りすぎて亜矢の方へと進んだ。 美保は呆然とグリアを目で追う。 だんだんと近付いてくるグリアに対し、隠れていた亜矢は今さら逃げ出す事も出来ず、思考だけが駆け巡る。 (な、何!?どういうつもりなの!?) 目の前でグリアが立ち止まったと思った瞬間。 グイッ!! 「きゃっ!?」 いきなり強い力で腕を掴まれ、引っ張られ、亜矢は思わず声を上げた。 二人の目の前に引きずり出された状態の亜矢。 「あ、亜矢!?」 美保も目を丸くしている。 未だ、亜矢の腕を強く掴んだままのグリアを、亜矢は睨み付けた。 「ちょっとあんた、どういうつもり……」 そこまで言って、次の言葉は塞がれた。 掴まれた腕に体ごと引き寄せられたと思ったら……… 一瞬にして口を、塞がれた。 いつもなら『口移し』と称するその行為で。 その場の時が止まったかと思った。 「やっ……!」 亜矢は腕を突っ張り、グリアを引き離した。 だが、亜矢がまず目を向けたのはグリアでなく、美保の方。 美保は放心したかのように、こちらを見つめている。 「……何で?亜矢は、グリアくんとは何でもないんじゃなかったの…?」 力なく、そう呟く。 「美保……ち、違う……本当に違……」 だが、どう否定すればいいのか分からない。 誤解を招くようなグリアの行為も、グリアと自分の関係も。 何も言えない、説明できない。そんな自分がもどかしくて。 何も発する事が出来ない亜矢の口はただ、小さく開いたまま。 「と、いうワケでな。あんたに構うヒマはねえのよ」 そんな中で、グリアが一人、いつもの口調で言う。 「もう、訳分かんないよっ!!」 美保は叫ぶと、二人に背を向けて走り出した。 「美保ッ!!」 亜矢も叫ぶが、美保はそのまま校門を抜け、外へと飛び出して行ってしまった。 亜矢は自分も走り出そうとしたが、ハっと足を止めてグリアの方を向いた。 「………どうしてあんな事したのよ」 亜矢は表情が見えないくらい顔を伏せ、その声は重く低い。 「ああ?今日の『口移し』がまだだっただろ?」 グリアは、いつもと全く変わらない調子で言う。 「そんなの、この場でしなくてもいいじゃない」 「知るか。オレ様の気分だ」 パシッ!! グリアの顔が少し、横へ弾かれた。 亜矢の右手が、グリアの頬に当たり、小さく響いた。 グリアはすぐに亜矢の方に向き直ったが、無表情だ。 「追いなさいよ」 「ああ?」 「美保を追いなさい!あんたが追うのっ!!そして、ちゃんと答えてあげて!!あんなの…ないわっ!!」 たたみかけるように亜矢の感情が一気に溢れ、涙目になる。 「もう答えたぜ?あいつには興味ねえ」 「そうじゃない、ちゃんと返してあげて………美保の気持ちに。結果が全てじゃないのよ。死神には分からないだろうけど…」 グリアは叩かれた方の頬にそっと触れ、小さく舌打ちをした。 そして、その日の下校時間。 グリアは美保を追って外へ出て行き、二人とも昼休み以来教室に戻らなかった。 亜矢は帰り道を一人で歩いている。 だが、ふいに帰路とは反対方向に足を進めようとした。 (やっぱり、心配だわ。死神はともかく、美保の事が…!) もしかしたら、グリアは未だに美保を見つけられていないのかもしれない。 そう思って、勢いよく反対方向に振り向いた瞬間。 ドンッ 後ろを歩いていたらしい人と正面からぶつかってしまった。 「きゃっ…ごめんなさい!……あなたは!」 その人は、昨日道で偶然出会ったグリア似の少年だった。 「ううん、大丈夫。……あ。亜矢ちゃん」 相変わらず馴れ馴れしく『ちゃん』付けで呼んでくる少年。 だが、そのグリアと比べれば天使の微笑みとも言える笑顔に、不快感は全く感じられない。 「ボクの名前は『リョウ』だよ。そんなに慌ててどうしたの?」 「友達を捜しに行くのよ。ちょっと心配な事があって」 「ふうん、ボクは亜矢ちゃんの方が心配だな。もうすぐ命の力が切れる時間じゃないの?」 「!!」 亜矢は目を見開いてその少年の顔を見返した。 何故、その事をこの少年は知っているのか。 何かを見透かされているような不思議な瞳から、何故か目がそらせない。 「お友達じゃなくて、グリアを捜しに行った方がいいんじゃない?」 「な、なんでその事を知ってるの?死神の名前まで。あなた一体………」 そこまで言いかけた時、亜矢の体勢がガクっと崩れ、地面に膝をついた。 「あっ……どうしよう、こんな時に………」 亜矢は苦しそうに息を荒くする。命の力が尽きかけているのだ。 こういう時の為に、いつもグリアとは行動を共にしなければならなかったのだ。 「亜矢ちゃん、大丈夫?」 リョウがしゃがみ、心配そうに亜矢の顔を覗き込む。 だが亜矢は力を振り絞って立ち上がると、ゆっくりと歩き出したのだ。 「美保を……捜しに行かなきゃ………」 リョウは微かに驚きの色を瞳に浮かばせた。 「それよりも、グリアを捜さなきゃ君の命が尽きちゃうよ!?」 リョウの言ってる事はもっともな事。だが亜矢は歩みを止めない。 「美保はきっと辛いはずだ………わ。はやく…はやく捜して誤解を解かな……きゃ……」 だが、ついに歩く力も失い、亜矢の体は地に向かって落ちかけた。 とっさに、リョウが亜矢の体を支える。 そのまま道の端に寄り、なるべく人目につかないようにした。 「君だって辛いだろうに……」 リョウは静かな口調で言う。 自分の事よりも、人の事を優先する、真直ぐで心優しく強い少女。 でも、仮の心臓しか持たない亜矢は、いつでも尽きてしまう不安定な命。 「なんでグリアが君を生かしたのか分かった気がするよ」 すでに意識が遠くなり、リョウの声は聞こえていないであろう亜矢。 頬にかかっている彼女の髪をそっと手でよけると、今度は自分の髪をかきあげた。 「『命の注入』は得意じゃないんだけどな」 リョウは少し困った顔をすると、ふうっと小さく息をついた。 「ボクがやるしかない…よね」 亜矢に水色の髪がかからないように、片手で髪を押さえつつ、リョウは自分の顔を亜矢の顔へと近付ける。 「おい、待ちやがれ!!」 突然聞こえて来た怒声に、リョウは顔を上げた。 目の前の道から、息を切らしたグリアが歩み寄ってくる。 走ってきたのであろう。 「何か嫌な予感がしたと思ったぜ。やはりてめえか、リョウ」 グリアはツカツカとリョウの側まで寄ると、亜矢の体を奪うようにして引き離した。 「グリア、亜矢ちゃんを早く!」 「んな事分かってんだよ!!」 グリアはリョウの目の前で亜矢に唇を重ねた。 気が立っていた為か、いつもらしくない、乱暴で荒々しい口移しだった。 命の注入が充分に終わっても離す事なく、重ねたままだ。 意識を取り戻したものの息苦しくなった亜矢は、ドンっとグリアを突き放した。 「ちょっと、苦しいわよっ…!」 グリアはその亜矢を見て、らしくない自分の行動に初めて我に返ったようだ。 「ちっ…こいつの心臓はオレ様が与えたものだ。てめえが構うんじゃねえよ」 「ボクにだって彼女の命を数時間延ばす事くらいは出来るけど…」 亜矢は、リョウとグリアの顔を交互に見ながら、訳が分からなくなった。 「ちょっと待って。二人はどういう関係で、リョウくんは何者なの?」 不機嫌なグリアはフイっと横を向いたが、リョウがニッコリと笑って亜矢の方を向いた。 「ボクは、天界から来た…人間の言葉で言う、『天使』かな」 「て、天使!?」 死神の次は、天使。 非現実的な事ばかりが続いているだけに、認めたくなくても心ではすぐに受け入れられてしまう所が悲しい。 「人の魂を狩ったと思えば、人の命を救ったりする。グリアの自分勝手な行動が、天界と冥界の秩序を乱してしまうんだよ」 「どうなろうと知った事か。てめえは、いつもオレ様の邪魔ばかりしやがって」 亜矢の心に、不安がよぎる。 天使のリョウは、自分を迎えに来たのだろうか? 本当はあの時の事故で死ぬはずだった亜矢。 グリアに仮の心臓をもらい、今もこうやって生き長らえている。 これは、許されない事なのか。人の歴史を変えてしまう事は、重罪なのか。 「ううん、今回はちょっと違うかな。亜矢ちゃんを生かした理由がボクにもちょっと分かったから」 少し表情を曇らせている亜矢に向かい、安心させるように笑いかける。 「そう言えば、美保よ!!死神、美保は見つけられたの!?」 するとグリアは頭を掻いた。 「見付けられねえよ」 「何それっ!?じゃあ、早く捜しに行くわよ!」 乗り気でないグリアはひきずられるようにして亜矢と共に走り出した。 リョウはそんな二人が去ると一人、クスっと笑った。 (あんなグリアは初めて見た。やっぱり亜矢ちゃんはすごいなあ) リョウもゆっくりと歩き出す。 その時、前方から勢いよく走ってくる少女の姿に気付いた。 気が付いた時には遅かった。 少女は顔を伏せて前方を見ていなかったのか、速度を緩める事なく、やがてリョウと正面衝突した。 「きゃあっ」 「わっ」 ドサっと、少女が尻餅をつく。 今日はよく人とぶつかるなあ、とリョウは思いつつも、少女に手を伸ばす。 「大丈夫?」 だが、リョウの手を取るなり、少女はリョウの顔にボーッと見とれている。 リョウは「?」と思ったが、少女は立ち上がるなり、目を輝かせた。 「あの、私、美保って言います!あなたのお名前は何ですか!?フルネームで!!」 リョウは美保の勢いにたじろぐが、一瞬考えた。 「フルネーム?う〜ん……そうだなぁ……。天使リョウだよ」 とっさに思い付いた、何の捻りもない名前ではあったが、美保は気にする様子はない。 「天使……リョウくん……」 美保は、頬を赤らめながらリョウを見つめていた。 結局、美保を見つけられず、次の日の学校。 亜矢はグリアと共に美保の元に向かった。 「ホラ、死神!」 亜矢が肘でつつくと、ようやくグリアが口を開いた。 「その……昨日は悪かったな。だが、オレは…」 美保はキョトンとグリアを見上げていたが、やがてニッコリと笑った。 「ううん、その事ならいいの!美保、運命の人を見つけちゃったから!」 「はあ!?」 グリアと亜矢は同時に気の抜けた声を出したが、その時、先生が教室に入ってきた。 「今日は転校生を紹介する」 そして、皆の前に現れた水色の髪の少年。 「天使リョウです、よろしく」 その天使の笑顔にクラス中の女子が騒いだが、別の意味で心の叫びを上げてる人が三人。 (て、天使の人が何で!?) 驚く亜矢。 (まさか、あの人が同じクラスになるなんてラッキー☆やっぱ運命だわ!) 胸を躍らせる美保。 (あいつ…どういうつもりだっ!?) 殺気にも似た視線を送るグリア。 こうして、亜矢のクラスにまた新しいクラスメイトが増えた。 …………人間以外の。
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