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「……ほんとに古今東西、全人類の名前を覚える気かしら」
『キリ、残念ながらムカエは大マジだ』
「それって、これから人類史が続いていく限り終わりはやってこないじゃない。決して叶わない夢って本当にあったのね」
嫌味全開のセリフだが、ムカエは正面から受け止めて微笑んだ。
「確かに叶いそうもない夢ですけど、価値がない夢ってわけではないですから」
そして傍で浮いている、遠くの魂を気にしているAIを細めた横目で見る。
「それに、口うるさい協力者もいるので」
『……君も一言多いと思うぞ』
「じゃあ私は戻るわ。まあ、仕事さえしっかりしてくれればいいのよ」
言い終わると同時にキリは姿を消した。忙しいのか、それとも暑さを我慢していたのか。
数頭のラクダに乗った観光客らしき人間たちがムカエの少し遠くを通った。彼らは当然ムカエやアンカーに気付かない。
そして雲一つない空であるにも関わらず、人間たちは頭上で輝く星々にも気付かない。
丈の短い草木すら生えない金色の大地の上にあるのは、ムカエとアンカーだけが見えている紫の星空。
生きている者には見えない、誰も気に留めない、知っていなくとも困ることもない、かつて確かにこの星に生まれた者たちの名。
必ず意味はあるものだと信じられて、今日も少女の記憶に刻まれ続ける。
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