10人が本棚に入れています
本棚に追加
「何が以上なの?」
アンカーが百に上る名前を言い終わってから、ようやくムカエは口を挟むことができた。
『先程、天から落ちた魂たちの名だ。もし今ので覚えきれていなかったら復唱しよう』
「え……え!? 何で、どうして!?」
『迷惑だったか』
「いや、そうじゃなくて……。だって、アンカー言ってたじゃん。不毛な作業とか、理解ができないとか」
『そうだな。事実だ』
「じゃあ――」
『ただ、ムカエを見ていて、多くの消え去る魂たちを見て……なぜか、「覚えなければならない」という判断を下したのだ。……私はAIだ。感情に似たものは持っていても、しかし突き詰めればそれはプログラミングされたものにすぎない。本来は想定の範囲内の行動だ。だが、君に一種の敬意を覚え、とっさに名前を記憶することで君の支えになろうとしたことは、自身でも説明ができない』
立方体にすぎないアンカーには表情はない。しかし低くぶつぶつとした音声は困惑に満ちていた。セリフの長さも、ムカエが今まで聞いてきた中で一番の長さだ。
ムカエはアンカーの側面にそっと手を触れる。夜風に晒されていたので、ひんやりと冷たい。
手が冷たい人は心が温かいと言うが、それはAIでも同じなのかもしれない。
「アンカーは気まぐれ屋さんだね」
『気まぐれではなくプログラムだ。まあ、神が設定したプログラムでこのような思考になるということは、ムカエの行動は神々も認めているということだろう。そういう結論にする』
「もしかして、応援してくれてる?」
『勝手にそう思えばいい。そして勝手に名前でもなんでも覚え続けるがいい。私はAI故に、君の行いをサポートするだけだ』
「……うん。アンカー、ありがとう」
短くぶっきらぼうに点滅するアンカーの光に、ムカエは柔らかい笑みを返した。
もうムカエは流れ星に怯えないだろう。その眼ではとらえきれない光は、これからは赤く輝く目が追ってくれるだろうから。
最初のコメントを投稿しよう!