星を見上げて

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40a0f20a-648d-45e0-b39e-c26f27ed77f6「ピエール・ブルヤ。エイセル・ムタリカ。エラ・アッタ。イブラヒミ・マリガ……」  少女は人名を次々と読み上げる。夜空に文字が記されているわけではないが、彼女は明らかに星の一つひとつからそれらを拾い上げていた。 『――ムカエ。その不毛な作業をいつまで続けるのだ』 「うるさい、アンカー」  人名の詩に横槍を入れたのは、スピーカーを通した男性の低い声。  それはムカエと呼ばれた少女の腰辺りで漂う、貯金箱くらいの大きさの白い立方体から発せられた声だった。サイコロの「一」の面のような赤い光が点滅する一面があり、それ以外は無地という奇妙な物体だ。  作業を邪魔されて眉間にシワを寄せるムカエの目の前まで浮かび上がり、白い立方体の「アンカー」は咎めるようにムカエの視界を行き来する。 『ムカエ。君は何物だ?』 「天使。アイアム天使。イエ―イ」 『所属と業務内容は?』 「第九神界『エイル特攻隊』編纂課所属。業務は死者の魂の誘導」 『次の質問だ。なぜ君はそのような無意味な行為をしているのだ?』 「無意味?」 『事実だろう』  ムカエは大きくため息を吐いた。 「わかっていないなぁ。そもそも、ないものの証明なんて出来るわけないのにさ。神様にこねくり回されて作られたAIだか何だか知らないけど、あまり頭よくないね」  今度はアンカーが反応した。チカチカと赤い光を激しく点滅させ、蚊のようにせわしなく飛び回った。 『ほう、なら次の仕事からは私は一切手を貸さないが、頭がよくないAIの助けなど必要ないだろうね?』 「すーぐ拗ねるんだから。よくわかんないね、君は」 『お互い様だろう』  べー、と舌を出したムカエはまた名前を読み上げる作業に戻った。呆れたアンカーはもう何も言わなかった。
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