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上司も見上げて
翌日の夜もムカエは平原から空を見上げ、人間の名を読み上げている。
時折、流れ星が見えると、ムカエの視線は鋭くそれを追った。その少ない流れ星に、時には安堵の表情を見せ、時には別れを悲しむような表情も見せた。
それに気付いていたアンカーだったが、特に気に留めることではないとして話題にもせず、その後一切の興味も示さなかった。
今宵、ムカエが読み上げた名前が一万を超えようとしたとき、ようやく彼女に声をかける人物が現れた。
「――貴方が頑固で頓痴気で唐変木のムカエさんかしら」
ムカエが振り返ると、そこにはプレスできっちりと折り目が入った黒のスラックスとパリッとした白いシャツを着こなし、その上からムカエと同じブレザーを羽織った長身の女性が睨むような目つきを向けていた。腰まで届きそうな黒髪は夜風が吹きすさぶ中でも微動だにせず、明らかに物理法則の枠から外れた存在であることを示している。
「……天使違いですね。名前はムカエですが、頑固とかそういうトッピングはやってないんで」
「じゃあむしろ正解ね。今日からあなたの上司になるキリよ。よろしく、頑固で頓痴気な唐変木さん」
初対面とは思えぬ物言いを涼しい顔で吐き出すキリ。
ムカエはこの時点で、彼女が自身の苦手なタイプだと勘付いた。
「さて、上司としての初命令よ。なぜそんな無駄なことをしているのか、教えてくれないかしら?」
キリのその言葉に、むぅと口を尖らせるムカエ。
「無駄なこと……さて、どの行動を指すのかわからないですね。それに私は今日の業務を終えています。今何をしようとも自由なのでは?」
「単純な興味よ。他の天使から『人間の名前を延々と読み上げる妙な天使がいる』って聞いてね」
「感想は?」
「レビュー通り、無味簡素に見えて中身はゲテモノ風味だったわ」
「そっすか。じゃあ私は妙な天使に戻るんで。お疲れ様でっす」
「ははーん。さては貴方、協調性皆無ね? で、そろそろ教えてもらえるかしら。どうして――毎日死者の名前を言い続けているのかしら」
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