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星降る夜に
「ほら、行った行った」
ムカエはタンポポのように光を散らしている魂を、夕焼けが眩しい上空へ追いやった。あの魂は死後も空へ昇らず、ヨーロッパのとある市街の裏路地で漂っていたのだ。彷徨う魂を導くのも彼女の業務内容である。
小さく震える光の玉を蹴とばすように扱うムカエ。サポート役として是非とも苦言を呈したいアンカーだが、以前も同じようなことを言って報復として沼地に沈められたのでスピーカーをつぐんでいた。
「ばいばい、クアラルンプール」
ただ、今のムカエの言葉にはどうしても一言をはさみたくなってしまった。
『最近の人間は、その、何だ……変わった名前を付けるものだな』
「……アンカー、さっきの魂に名前は見えた?」
『そういえば、どこにも見当たらなかったな……まさか』
「そ。あれは名前を付けずに捨てられたか、それが必要ではない環境で育ったか、どちらにせよ名付けられずに死んだ魂。あーいうのには名前を付けてるんだ。今までもそうだったけど、気付かなかったの?」
『気付かなくても問題ないだろう。業務に戻れ』
アンカーに小突かれながらムカエはその場から消え去る。
薄暗い街の影が緩やかな時を刻んでいた。
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