星降る夜に

2/4

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 また、ある晩。  ムカエはいつもの平原で、いつも通り空へ昇る魂がどこへ向かっているかを目で追っていた。  その光の列はまさに天の川のようであり、その粒一つひとつが人類史を抱えている、何物にも代えがたい存在なのだ。 『ところでムカエ。君は一晩で十万以上も天に行く魂の名を忘れはしないものなのか?』 「……ま、そりゃ天使といっても能力の限界はあるよ。だから天使並みの腕力とか体力とか、そういうのを削って脳のメモリを広げてるんだ」  ムカエは髪の先をくるくるといじりながら、その指先できちんと魂たちを誘導していた。 『――ムカエ、異常事態だ』  魂の行列を管理するアンカーが呼びかける。気のせいかもしれないが、その声にはわずかなノイズが混じっていた。 「また迷子の魂?」 『いや、違う。ムカエ、北の空だ』  彼方の北の空へ目を向ける。人間の肉眼の限界を超えた果ての空を見て、ムカエの口がぽかんと開いてしまった。  そこでは、あまたの光の筋が夜空に次々と引かれては消えていた。つまり流星群であるが、地に向けて落ちているのは通常の星ではなく、人間の魂たちである。 「何で……魂たちがあんなにたくさん落ちていくの……?」  ムカエが驚くのも無理はない。  空の広さは無限のように思えて、魂を留めておく容量には限界があるのだ。だから、空は定期的に古い魂を流れ星にしている――つまり、魂を落として燃え尽きさせているのだ。  当然、そうなれば魂は消え去る。その塵となった魂の名はムカエしか知らないこととなり、もしムカエがまだ覚えていない魂なら……。  しかしその頻度は一晩に一つや二つ程度である。十を超えることすらムカエは見たことがなかった。  自らが費やしていた使命の破綻。それは彼女が最も恐れていることだ。  星が降る。それはムカエの絶望につながるのだ。 「待って、まだそこには……覚えていない名前が、たくさん……!」  ムカエは彼方の夜空に手を伸ばす。しかし、彼女が天使の力を振り絞ろうとも、星と神が取り決めた容量のルールには逆らえない、どうしようもない。ただ流星となって塵と化す魂を眺めることしかできない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加