星降る夜に

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『どうやら向こうの沿岸国で大地震があったようだな。それで通常より多くの死者が出て、魂を受け入れるために古い魂は落ちた、といったところだろう』 「……」  そっと置くようなアンカーの報告にも、ムカエは一切反応を示さない。声がまったく意識に引っかからないのだ。 『ムカエ』 「あ、あはは。これで全員の名前を覚えようって計画がパァになっちゃったね。ま、これから真面目に働いて偉くなるのもアリかな。アンカーもそう思わない?」 『……ムカエ、さらに報告だ。先ほどの魂だが』 「いい。聞きたくない」 『それは承服できない』 「いいから黙ってよ!」  彼女の中で何かが決壊した。自らの行いが否定された事実を前に、底の知れない脱力感が包み込む。  その末にムカエの表情は緩んだ。ずっと持ち続けていた重い荷物を手放したような安堵感にも見える。 「……まあ、もともと私が天使になる前に消えた魂もあるだろうし、これまでの全人類の名前を覚えようなんて無計画、無茶にもほどがあったね。もー、アンカーもわかっていたなら止めてよ。無駄だってさ」 『ムカエ。自己嫌悪に陥るのは勝手だが、私はお前に報告しなければいけないことがある』 「はいはい。その災害地域の魂の誘導でしょ。詳しい場所教えて、早く」 『では報告しよう。カルロス・テイシュイラ、パウロ・クルス、リカルド・シャヴィール……』  アンカーは次々と人名を並べていく。  電子音で告げられていく名前の羅列を、ムカエは念仏を聞く馬のように聞き流すことしかできなかった。 『――ルイス・ヴィエイラ、パトリシア・ネト、クラウディア・ルイス、ルベン・ガマ。以上だ』
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