流星屋は、今日も働かさせられる。

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「ええー、いいなあ、ボブさん」とタロウが悔しそうな表情を見せる。 「いや、10分も連続で射てば射出機がオーバーヒートする。せいぜい300発が限界だろう」 窓の外ではボブの船が小刻みに揺れ始めた。 1秒に1つのペースで小さな灰色の塊が地球に向かって落ちていく。 思ってたより射出の速度が速い。改造しやがったな。 だが、見たところ砲塔自体は旧式のままで、あれだと5分も持たないだろう。 「たへる?」 ジェフが新しいポテトチップスの袋を持ってきた。  「1個もらうわ」 「僕も」 ボブの作業を俺たちはぼーっと眺めていた。     等間隔で進んでいた動きがおかしくなったのは、撃ちはじめて3分が経過したころだった。 「あへ。なんはおはひくなひ?」 ポテトチップスでベタついた指で、ジェフが窓の向こうを指す。 2020発を撃ち込もうとしていたボブの船が少しずつ、船首を上の方向へ傾き始めた。 反動制御装置がやられたな。あれだと方向が定まらない。 俺は無線のボタンを押し、ボブに呼びかけた。 「おい、ボブ。もうやめとけ。そんな状態じゃ狙った場所に撃てないぞ」 「まだあと1700発も残ってんだ。黙って見てろ」 そういう間にも砲塔が地球の方向を離れていく。 「この、くそ、どこ向いてんだよ。このオンボロ!」 「おいおい、ほんともうやめとけ……」 そう言いかけた瞬間、砲塔の付け根がボン! と爆発するとともに無数の月の欠片が四方八方に勢いよく散らばった。     「ぎゃああああぁぁ……」 爆発の衝撃で、ボブの船はぐるんぐるんと縦に回転しながら月の方向へと吹き飛んでいった。 「だから言わんこっちゃない……。うわ!」 船内に衝撃が走る。 「うへん へんぽう ……。測定アンテナ破損。上部太陽パネル損傷。これは痛いなあ」 ポテトチップスを飲み込んだジェフが、袋を持ったまま副操縦席に座り、赤く染まった画面を睨みながら告げる。 「ああー、まだあとローンが10年残っているのにい!」 再び、タロウの甲高い声が船内にこだまする。 「あのバカヤロー! 危ねえじゃ……」 そう言いかけた途端、頭上の方でこれまで聞いたことがない爆発音が耳に入ってきた。
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