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「明日から、しばらくドラマの撮影で遠方へ出かけることになった」
七月の最終週の日曜の夜。奨学金を貰いながら都内のエリート私立大学二年へ籍を置く貧乏学生の俺、高遠颯斗は突如、お互い全裸で賢者タイムを寛ぐ恋人からそう告げられた。
恋人とは勿論、常に世間を騒がせる超人気俳優で俺よりも十歳上の龍ヶ崎翔琉のことだ。
「それって、“泊まりがけ”ということですか?」
連日の猛暑で、冷房がキンキンに効いた龍ヶ崎家のキングサイズのベッドの上。翔琉に背後から抱き締められた状態で、俺は何の気なしに聞き返した。
「そうなるな」
耳許で切なそうに告げる翔琉に、内心俺は「そんな大袈裟な」と思う。
今までだって、翔琉の仕事の都合で長い間逢えなかったことも多々あったはずだ。
それでも最近は、隙あらば一緒にいることが多かったような気がするため、物理的に離れ離れになるのはもしかすると久しぶりかもしれない。
背後から覆い被さるように俺を抱き締めていた翔琉は、淋しいと言わんばかりに、自身の長い右脚をすっと俺の脚へ絡める。
同時に、濃厚なムスクの香りが俺の鼻を強く掠め、首筋に顔を埋められていることをより意識してしまう。
「……浮気、するなよ」
珍しく男は酷く甘えた口調だ。一体どちらが歳上なのか分からない。
「する訳、ないじゃ……」
軽く溜息をつきながらそう言いかけて、俺は不意に黙り込む。
また余計なことを言ってお仕置きだ何だ、と超絶倫男に際限なく啼かされる可能性が高いからだ。
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