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「じゃ、おやすみ」
アパートに着くと、緒方はすぐ、自転車を担いで二階に上がっていった。
それを見送りながら、ひなとは柚月に訊いてみる。
「柚月さん、なんですごい勢いで帰ってきたんですか?」
「いや、緒方さんが自転車で帰っていくのがバスから見えたんだ。
そしたら、猛烈に嫌な予感がして」
慌てて夜道を急いだと言う。
「そしたら、お前と緒方さんが二人きりで仲良く夜道を帰ってたんだ。
お前の怪しい予知夢より、俺の勘の方が当たるってことだな」
と言う柚月に、
別に同じアパートの緒方さんと一緒に帰ってもいいじゃないですか、と思う。
だが、お前の予知夢は当たらないと言われたことの方が気になったので、とりあえず、そこだけ反論してみた。
「いやいや。
今、エジプトの図書館を徳川吉宗っぽい人が白馬でパカパカ歩いているかもしれないじゃないですか。
私たちに見えてないだけで」
だって、夢とロマンの国エジプトですよ。
なにが起こるかわからないじゃないですか、と思う頃には、柚月はもう自分の部屋の鍵を開けようとしていた。
これ以上、ひなとの戯言に付き合ってくれる気はないようだった。
だが、柚月はそこで手を止め、こちらを振り向く。
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