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『ピンポーン!』
いつもの様に、約束の時間ピッタリに、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けるとそこには、ふにゃりと笑う俺の可愛い子狸ちゃんの姿。
......まぁそんな風に言ったらきっと、またしても頬をぷぅっと膨らませて怒っちゃうんだろうけれど。
「こんにちは、雄太君。
今日はまた、シュークリームを焼いて来ました」
そう言いながら手渡された紙袋の中から漂う、甘~い香り。
「いらっしゃい、六華。
うわぁ、今日のもめっちゃ美味そうじゃん!
......早速、食っていい?」
それを聞いた彼女は、ちょっと困り顔で笑った。
「仕方ないですね。
でも今は、一個だけですよ?
お昼ご飯、食べられなくなっちゃうから」
あれから更に、半年の月日が流れた。
俺は彼女の事を、『六華』と。
そして彼女は俺の事を『雄太君』と呼ぶようになった。
俺達の関係は、すこぶる良好。
......っていうか俺の方が、彼女にメロメロなんだけれど。
そして六華は相変わらずの天然の小悪魔っぷりで、俺を翻弄し続けている。
......でも本人は、そんな事に気付いてすらいないワケだけだが。
三橋に言わせると、俺は彼女の尻にしっかりと敷かれているらしい。
でもそれも悪くないな、なんて俺は思っている。
「そろそろ、お昼の支度が出来るから。
雄太君、机の上、片付けておいてね?」
キッチンから、六華の声が聞こえる。
俺は了解、とだけ返事をして、こっそり三個目のシュークリームに手を伸ばした。
...FIN
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