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「先輩、お久し振りです。
......お顔、大丈夫ですか?」
心配そうにそう言うと、清楚な白いハンカチを俺に差し出し、にっこりと微笑む六華ちゃん。
「んー、大丈夫じゃないかも。
......だから六華ちゃん、慰めて?」
ふざけてそう言って伸ばした俺の手をさっと避け、彼女は眉間にシワを寄せて言った。
「先輩、ホント変わらないですね。
......三角関係の末、傷害事件に巻き込まれるとか、本当にやめて下さいよ」
「ひっでぇな、六華ちゃん。
大丈夫だよ、そんなヘマはしねぇから」
俺がククッと笑って答えると、心底呆れた感じで彼女は大きな溜息を吐いた。
「......二股の現場を恋人に見つかった直後の人の台詞とは、到底思えないですね」
うん......確かに。
仰る通りで、ごさいます。
あまりにもこの子らし過ぎる言葉に、つい噴き出した。
すると彼女も釣られたように、クスクスと可笑しそうに笑った。
「で、どうしたの?
わざわざ六華ちゃんが俺を訪ねて来るくらいだから、何か用があったんだよね?」
俺と彼女は高校時代、サッカー部の部員とマネージャーという関係ではあったものの、デートした事はおろか、ふたりきりで話す機会すらほとんど無かったように思う。
「実は先輩に、お願いがありまして......」
彼女はそう言うと、少し恥ずかしそうに頬を染めた。
んん?
......この流れはまさか、愛の告白とかじゃねぇよな?
正直こういう純粋で真面目なタイプの子とは、面倒だから色恋沙汰ではあまり関わり合いになりたくない。
「......お願いって?」
俺は少し戸惑いながらも、聞いた。
すると彼女は顔を赤らめたまま、俺の事を見上げた。
そしてその表情は、恋する乙女そのもので。
......俺の脳内は、どうやってこの状況から逃れるかという事に占拠された。
だがしかし、彼女のお願いは、全く想定外のモノだった。
「あのですね、杉本先輩。
......お願いしますっ!
私の事を、オトナの女にして下さいっ!!」
その言葉に、ブフォッと思いっきり吹き出した。
「えぇぇぇぇえっ!?
オトナの女って、六華ちゃん......お前その意味、マジで分かって言ってるっ!?」
慌てて聞き返すと、彼女はポカンとした様子で大きく口を開けた。
「へ......?えっと......意味って......」
しかしすぐにその意味をちゃんと理解したのか、六華ちゃんはますます真っ赤になり、かなり慌てた様子で一気に捲し立てるように叫んだ。
「あっ、違いますっ!!
そういう意味じゃなくて、あの......杉本先輩の彼女達みたいな、大人っぽい素敵な女性になりたいって、そういう意味ですからっ!!
お洒落とかそういうの、私ホントに疎くって......。
たくさんの女性達といつも同時進行でお付き合いされている杉本先輩なら、そういうのにもお詳しいかと思って......」
両手をバタバタと振り回しながらそう言う彼女を見て俺は、心底ホッとした。
......言われている内容は、かなーり失礼な気もしないではないが。
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