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「取り敢えず、うち来る?
ここで立ち話も、なんだし」
その言葉に六華ちゃんは、何の迷いもなくコクリと頷いた。
俺はそんな彼女を見て、思わず苦笑した。
......しっかしコイツ、ホント警戒心の欠片もねぇな。
まぁ勿論俺も、こんな子供みたいなヤツに手を出すつもりはないけどさ。
そして俺達は、ふたりで部屋に向かった。
玄関先に着くと彼女は、ハッとした様な表情で言った。
「あ......すみません、先輩!
うっかりしていて私、手土産とか何も、持ってきてない......です」
それから六華ちゃんは、申し訳なさそうにそろりと俺の事を見上げた。
その表情を見て俺は、ついまた吹き出してしまった。
「いや......あの、六華ちゃん?
別に手土産とか、マジでいらないから。
......それにしても今時、どうやって育てたらこんな女子大生が出来上がるんだよ」
俺の発言に彼女は一瞬だけ驚いた様な表情を浮かべたものの、すぐに頬をプッと膨らませた。
「よく友達にも、言われます。
......でもそれって絶対、褒め言葉じゃないですよね?」
「ううん、褒め言葉だよ?
真面目で純粋って、令和の世には希少価値な気がするし。
まぁでもオトナの女は、ほっぺたを膨らませたりしないけどね?」
頬袋に餌をたっぷり蓄えたリスみたいに膨らんだ頬をツンとつつくと彼女は、真っ赤な顔のまま慌てて自分の両頬を抑えた。
そんな六華ちゃんの姿を見た俺は我慢の限界を超え、腹を抱えて爆笑した。
「......杉本先輩、酷いですっ!
そんなに笑う事、ないじゃないですかっ!」
俺の事を恨めしそうにじとりと睨み付け、彼女が訴える。
ペットをつい構いつけてしまう、飼い主みたいなもんだろうか?
コロコロと変わる表情が可愛くて、ついからかいたくなる。
そんな風に考えていたら、彼女は突然大きな溜息を吐いた。
「私にはやっぱり、オトナの女を目指すなんて無理なんですかね。
......顔だってこんなに童顔だし、言う事もする事も、子供みたいで」
それから六華ちゃんは、少し泣きそうになった。
だから俺は、慌てて彼女に言ったんだ。
「大丈夫だって、六華ちゃん!
俺がちゃんとお前の事、オトナの女にしてやるからさ?」
それから俺は、彼女の頭を撫でた。
すると六華ちゃんは少し困った様に笑い、言った。
「ありがとうございます、杉本先輩。
......でもこれ、完全に子供扱いですよね」
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