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Lesson0 再会
自宅アパート前の、道路脇にて。
俺は恋人の逸美に現在、詰め寄られている。
「雄太。......これって一体、どういう事?」
それを聞いたもう一人の俺の恋人 澪も、半狂乱で絶叫した。
「それは、こっちの台詞よっ!
まさか雄太君、浮気してたわけっ!?」
うわぁ、最悪っ!
......この状況は、まず過ぎる。
大きな溜息をひとつ吐き、この状況を打破すべく、軽い口調でヘラヘラと笑って告げた。
「んー、浮気はしてないよ?
だってどっちの事も俺、愛してるもん。
どっちも本命で、どっちも本気♡」
半ば自棄糞でそう答え終えるのとほぼ同じタイミングで、澪の白魚のような手が伸びてきて、超高速で平手が俺の左頬へ。
その瞬間、激しい痛みが走った。
「痛ぇっ!
澪、てめぇ何すんだよっ!? 」
「もう、別れる。
......雄太君の、バカっ!
サイテーっ!大っ嫌いっ!」
俺の訴えをガン無視したまま号泣しながら一方的に絶叫し、澪はその場から走り去った。
「......逸美」
俺が残されたもう一人の恋人の名を呼ぶと、彼女はにっこりと微笑んだ。
......あれ?
もしやこっちは、セーフ......なのか?
しかし、ほっとしたのも束の間。
彼女は俺の事を、鬼のような形相でギロリと睨み付けた。
そして唖然とする俺の右頬へ、澪以上に強烈な平手打ちが炸裂。
「ガハッ!逸美......お前もかっ!!
つーか顔はやめろ、顔はっ!!」
「死ね、雄太。
......二度とその面、私の前に見せんな」
それだけ言うと逸美はニヤリとシニカルな笑みを浮かべて、俺にクルリと背を向けると、まるで何事もなかったかのようにカツカツと軽快にハイヒールを鳴らして駅に向かい颯爽と歩き始めた。
「くそっ!......逸美のヤツ、今日は予定があるって言ってた癖に」
地べたにペタンと座り込み、自分のやらかした事は棚に上げて、不満の言葉をブツブツと口にしながらながらひとり、俯いた。
その時である。
愛らしいソプラノボイスが、俺の名を呼んだ。
「......あの、杉本先輩?」
ハッとして顔を上げるとそこには、高校時代のサッカー部のマネージャー、内藤 六華ちゃんの姿。
肩の辺りでキレイに切り揃えられた、真っ直ぐな黒髪。
キラキラと輝く、タレ気味の大きな瞳。
ふわふわと柔らかそうな、マシュマロみたいな真っ白な肌。
約1年振りの再会だというのに彼女は、恐ろしい程に高校生だったあの頃と変わっていなくて。
......まだ幼さとあどけなさを多分に残す子供みたいな彼女の姿に、正直少し驚いた。
「六華ちゃんじゃん、久し振りぃ!
すげぇカッコ悪いとこ、見られちゃったな」
俺はまたしてもヘラヘラと笑い、六華ちゃんに向かい手を振った。
すると彼女も、少し困ったような感じではあったものの小さく笑い、ペコリと綺麗なお辞儀をした。
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