開演の合図も聞こえないくらいに。

開演まで、あと5分。

頭で考えるのは、簡単だ。

脳内のシュミレーションも上々だった。

自分の書いた構成に従い、その通りに言葉を発する。

自分が脚本し誂えた舞台で、ただ、用意した事を成し遂げるだけ。

ただ、それだけ。

家での練習でだって、最高の出来だった。

後はそれを、そのまま、行動に移すだけ。

ただ、それだけなんだ。

ただ、それだけなのに。

それなのに何故だろう。

開演してから、どれ程経ったのか。

いざ本番になると、一気に頭の中が真っ白になり、考えるよりも先に口が動く。

既に幕は開いた。

時間感覚なんて、とっくに狂ってる。

人々の視線が痛い。

些細なことから、普段絶対に口にしないような、自分だったら書かないような。

そんな言葉を、声の震えも、尋常じゃない程の額の汗も。

君のその、驚いたような、嬉しそうな涙も。

全てを無視して、自分の口は止まることを知らない。

どうやら、自分はアドリブが大好きなようだ。

歓声は、すぐそこに。