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何事もなければ、あなたはこんなところにいることはなかったであろう。
だが、世間に恐ろしい流行病が発生し、遅れに遅れた授業の巻き返しで、長期休暇は削りに削られ、数える程しか残らなかった。
淡々と告げられるニュースに嫌気が指し、電源を切り、サンダルに足を突っ込んでコテージの外に出る。
数える程しか残らなかったあなたの休暇先は、高原のコテージ。
何事もなければ、あなたは、人混み溢れるイベントに参加したり、気の知れた仲間と買い物を楽しんでいたであろうに。
コテージの外はすっかり夜の帳。降るような星があなたを迎え、思わず歓声をあげる。
コテージから父の声がした。「どうだい、この星空は」と。
あなたは無言で頷き返す。父は「ここに連れてきてよかった」と呟いた。
しばらく父と星空を見上げた。
まるで吸い込まれそうな星空だと思いながら。
「そうだ、青の星は見えたかい? 何百年に一度しか見ることが出来ないそうだが」
この高原に行くことが決まったとき、父がそう言って、母が自由研究にいいんじゃない? と言っていた青の星。
あなたは空を見上げて、その青の星を探す。
「望遠鏡、レンタルしておけばよかったかな」肉眼で見えると聞いていたからなぁ。と、父の言い訳を聞きながら、あなたはその青の星を探す。
星、星、星。降るような星という例えがあるけれど、これは星の海に吸い込まれると言ったほうがいいのでは。
「あっ!」
あなたは見つけます。青い星を。無数に輝く星の中で、たった一つ青く輝くその星を。
「見つけた!」
指差した途端、あなたはその青い星に向かって吸い込まれていく。
父が慌ててあなたに向かって手を伸ばしますが、指が触れそうで触れることができない。
悲鳴と共に母が駆け寄り、あなた、それから、父へ手を伸ばしますが、届かない。
あなたは青い星に向かって吸い込まれていく。
あなたの父も、青い星に向かって吸い込まれていく。
あなたの母も、青い星に向かって吸い込まれていく。
あなたが泊まっていたコテージが、足元に見える。
あなたが暮らしている街が、足元に見える。
あなたが生きている星が、足元に見える。
あなたは、あなたの父は、あなたの母は、青い星に向かってぐんぐん吸い込まれていく。
ぐんぐん、ぐんぐん、青い星が近づいていく。
青い星に、赤と白の色が加わる。
青い星の光が当たっていない赤い部分を中心に、無数の光が見える。
その光は降るような星にそっくり。
その光めがけて、あなたはぐんぐん吸い込まれていく。
その光の一つが、あなたが泊まっていたコテージそっくりだと気がついたその時……
「あっ、流れ星!」
「まぁ、本当、素敵ね。彗星観察で流星も見られるなんて」
「願い事、三回言えたかな?」
また、星が流れる。
彼らは空を見上げながら、それぞれの願い事を心に浮かべる。
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