チューリップと風車

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“咲いた 咲いた チューリップの花が 並んだ 並んだ 赤 白 黄色” 葉桜になったばかりの街路樹の並び立つ歩道。 幼稚園の曇りガラスの窓の奥からピアノの音色に合わせて響いてくる子供たちの声。 「これ、チューリップ?」 三歳になったばかりの私は右手に持ったお気に入りのおもちゃを隣の母に見せる。 「それは風車(かざぐるま)」 一本の軸に赤、白、黄色の三輪が並んだおもちゃだ。 「あか、しろ、きいろだよ?」 三歳の子供には「目の前のチューリップの花がたまたま赤、白、黄色だった」という歌詞が「赤、白、黄色のものはチューリップ」という教示に錯覚されてしまうのだ。 「それは風車なの」 アスファルトの匂いが立ち上る、若緑の揺れる道で、母は笑顔で幼い娘の手を引く。 「わぁーっ」 吹き付けてくる磯の香りと共に勢い良く周り出した赤、白、黄色の車輪に私は目を見張った。 「綺麗な海でしょう?」 母の手が幼い娘の小さな手を握る力を強める。 「(なぎ)ちゃん、頑張って歩いて来られたね」 鮮やかな三色の風車は向こうに広がる深藍色の海を透かしながら、風を受けて回り続ける。 少し離れた所で小さな白壁の城じみた灯台が光る海と向かい合っていた。
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