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「どうして親指姫の話がそんなに好きなの?」
お祖母ちゃんと同じように温かく、しかし、もう少し柔らかでふくよかな手が幼い娘の小さな頭を撫でる。
「おかあさんのところにチューリップから生まれてくるから」
「そう」
「なぎはどのチューリップからうまれてきたの?」
赤? 白? 黄色?
どれかの色をしたチューリップからママの所に生まれてきたはずだ。
「なぎはママのお腹の中から生まれてきたんだよ」
小さな体を毛布でくるみ直しつつ母は抱き寄せる。
ふわりと二人の間をお風呂で一緒に使ったボディソープの甘い匂いが漂った。
「ねえ、ママ」
ボーッ。
窓の方から低い大人の男の人に似た音が響いてくる。
あれは海を行く船の鳴らす音だ。
夜の間でも灯台の照らす灯りのおかげで船は海を渡ってよその国や町に行くのだ。
ママもお祖母ちゃんもそう教えてくれた。
「おやゆびひめのおかあさんはどうしたのかな」
親指姫はお母さんの所を出たきり、二度と帰らなかった。
「どうしたのかな」
ママはおうむ返しにして娘を抱く手を強める。
ボーッ。
先程より遠く朧気になった汽笛を聞きながら母子は目を閉じる。
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