その歪な恋情は、血の匂いを纏ってあえかに微笑む

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◆◆◆  あれから三年。  俺達は未だ”幼なじみ”の関係を続けている。  あの日、確かに何かが変わることを期待して行動に移したはずだった。けれど、そんな俺の願いは無情にも打ち砕かれた。  翌日、普段となんら変わらぬ様子で俺の前に現れた茉莉。 『蓮は私にとってこの世で一番大切な人。だから、今までもこれからも私と蓮の関係が変わることはない』  そう宣言された時のあの絶望感は、三年経った今でもハッキリと覚えている。  時の流れとは無慈悲なもので、あの時の傷も癒えぬまま、ただいつしかその痛みに慣れることだけを学んだ。  教室の片隅で、窓辺に(たたず)み静かに外を眺める。  今しがた登校してきたばかりの茉莉の姿を捉えると、キリキリと痛み出した胸にそっと蓋を閉じて小さく息を吐く。 「──おっはよ! 蓮」  ポンッと軽く肩を叩かれて後ろを振り返ってみれば、朝から元気な笑顔を見せる一樹(かずき)と視線がぶつかった。 「……おはよ。相変わらず今日も暑苦しいくらいに元気だな」 「そういうお前は今日も消えそうな程に儚い美少年だな」    嫌味たらしく挨拶を返せば、それは更なる嫌味を乗せて返ってきた。 (……なにが儚い美少年だ)    確かに昔からイケメンだの美少年だのと騒がれてはいるし、それなりにモテる自覚はある。けれど、その魅力が茉莉に伝わらないならそんなものには何の価値もない。  再び窓の外へと視線を戻すと、それを追うようにして外へと視線を向けた一樹は、小さく溜め息を吐くと口を開いた。 「次の彼氏は二組の宮内か……。相変わらずモテるね、蓮の幼なじみちゃんは」  男と並んで歩く茉莉の姿を眺めながら、そう言って薄く笑った一樹。俺はそんな一樹の言葉を遠く聞き流しながらも、ズキリと痛む胸に顔を歪めた。  俺のことが”一番大切”だと告げながら、次々に新しい恋をしては彼氏を作ってきた茉莉。それはどれも短いもので、長くても一ヶ月ほどだった。  他の男はこうも簡単に手に入れることができるというのに、決して俺にだけは許されない”恋人”というポジション。   『蓮はこの世で一番大切な人』  そう告げられる度に、俺の”心”は酷く傷付き黒く(むしば)まれていった。  その”痛み”は癒えることなく歪み続け、やがて中毒性のある麻薬のような快楽となって、俺の中にある茉莉への”愛情”を着実に狂ったものへと変えてゆく。 「……蓮。お前も随分と報われない恋してるよな。モテるんだから彼女でも作ればいいのに」 「お前は何もわかってないよ」 「…………。わかりたくもないね、そんな辛そうな恋」  一瞬俺に向けて哀れむような顔を見せた一樹は、それだけ告げると小さく微笑んだ。  
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