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たくさんの縁談。
絡んできた茶髪の男。
嘘くさい笑顔。
女の子と──⋯リアン。
サラの手が伸びてきて、ロエルの柔らかい髪に触れた。
不器用にぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「サラじゃ⋯⋯ない」
「は?」
「サラじゃない!リュカ!リュカがいい!!!
リュカあああああ!!!」
「なんだと、てっめぇ!人が慰めてやろうとすれば!!」
サラが怒りのあまり、立ち上がる。
──リュカに会いたい。優しくて、綺麗で、頼りになるリュカに。
「先に嫌みなこと言ったのは、サラじゃん!サラの馬鹿!!」
「なっっ!!誰だ、コイツのこと蒼月の天使とか言ったのは!」
ぽかんと見上げると、眉を吊り上げた狂暴な顔があった。
ロエルの両目からボロボロと涙があふれる。
目の前に影が落ちたかと思うと、涙が舌で舐めとられた。
驚いていると、唇に唇が重ねられる。
するりとサラの腕がロエルの肩に回って、体ごと抱き締められていた。
「!?」
「泣いてるやつは体で慰めろって。俺の兄貴の言葉なんだけど」
サラはもう一度、ロエルに軽く口づけた。
しなやかな手が着物の合わせ目から入り込み、ゆっくり肌を撫でていく。
指が胸の頂点をかすめた。乳輪をくるりと辿り、乳首を親指と人差し指でこねあげていく。
「ちょっ⋯⋯!やめ⋯!!」
ロエルの体がビクビクとはねた。
サラのあたたかい舌が、ゆっくりと首筋を舐め、ロエルの口から思わず声が出そうになる。
その時。
がっとサラの肩が掴まれ、思いきり、ロエルから引き剥がされた。
「あれ、師匠⋯⋯」
リアンの拳がサラに向かったが、サラは咄嗟に飛びのいてよけた。
「師匠、大店のお嬢さんたちとお出掛けじゃあ?」
「お前が勝手に余計な約束をしてきたからだろう⋯⋯」
地を這うような声がした。
「だって、最近ただ働きが多いって言ってたじゃないですか。稽古がてらのお出掛けぐらい、営業、営業!」
悪びれないサラに、リアンの歯ぎしりが聞こえた。
呆気にとられたロエルは立ち上がって、体についた草をはらった。
リアンがサラから引き離すように抱き寄せる。
どんな顔をしていいかわからずに下を向いていると、リアンは崩れた襟元を直していく。
「何で、ここに⋯⋯」
「変な奴に絡まれていたのが見えた。客を宥めて後を追ってきたんだが⋯」
見上げたら、切ないため息が降ってきた。
「目を離すと、ろくなことがない」
蒼月への帰り道。
「え?リュカってやつが、あんたの恋人なんじゃないの?」
「ち、違うよ!リュカは友達!!」
「だって、あんなに大事に手紙を握りしめてたじゃん。てっきり友達は嘘だと⋯⋯」
気のせいか、辺りの気温が低くなってきたようだ。
「初めて⋯⋯もらったんだ」
ロエルは、はにかむように微笑んだ。
「手紙もらうような相手なんか今までいなかったし⋯⋯。大事な友達から初めてもらった手紙だから」
サラとリアンの視線がロエルに集中する。
「⋯⋯書こうか?」
黙っていたリアンが、ちらりとロエルを見た。
「え?」
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