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「飾る場所、どこがいいかな⋯⋯」
真剣に考えこむロエルにリアンが訝し気に問う。
「飾る⋯⋯?」
「リアン、書も師範でしょう。リアンが書いたのは人気があるから、掛け軸にして飾りたいって、兄さんが言ってたんだよ」
「⋯⋯もう⋯いい⋯⋯」
「リアン?」
何で赤くなってるの?と、聞きかけて、後ろからぽんと肩をたたかれた。
振り返ると、目の前に深い紫の瞳があった。
ロエルの頬にサラの右手が触れて、唇と唇が軽く重ねられる。
「!!!!!」
リアンがロエルを抱え込むと同時に、サラはまたも素早く後ろに飛びのいた。
「師匠、ちゃんと言わないと伝わらないって。ロエル、手紙なら俺がいくらでも書いてやるよ」
アーモンド形の瞳がきらりと光る。
身のこなしといい、本物の猫みたいだ、とロエルは思った。
「一人去ったと思ったら、また⋯⋯!」
リアンが憎々し気につぶやいた。
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リュカ様
お手紙ありがとうございました。
とても嬉しいです。何回も繰り返して読みました。
おれも蒼月の皆も変わりなく元気です。
リュカの後に入ったサラも、だんだん店に慣れてきました。
おれがリュカの手紙をあまりにも喜んだせいか、時々手紙をくれます。
毎日顔を合わせているのに手紙をもらうのは、なんだか不思議な感じがします。
リュカの元気な様子がわかって、安心しました。
騎士団に入ったんですね。リュカはすごいな、と感心しました。
最初は色々大変なことが多いと思いますが、おれはリュカなら大丈夫だと信じています。
体だけは大切にしてください。
休みをもらってズアに帰ってくることができたら、好きな物をたくさん作りますね。
リュカも良かったら、また手紙をください。待っています。
王太子殿下にお会いする機会があったら、よろしくお伝えください。
ロエル
◆◆◇◆◇◆◆
王宮の庭園の端にある四阿で、リュカはロエルからの手紙を読んでいた。
四阿は騎士団の詰所から近く、ちょうどいい避難場所だった。
「待っています⋯⋯か」
呟いたリュカは、思わずにっこりと微笑んだ。
さり気なくリュカの様子を窺っていた者たちが頬を染める。
しかし、その美貌は次の瞬間、わずかに曇った。
もう一度、文面をたどる。
「サラ?」
そういえば、そんな名前が先月来た手紙にもあった気がする。
「一度、帰ってみるか」
形の良い唇の端が上がり、瞳に強い意志が宿る。
脳裏には、ズアの想い人の笑顔が浮かんでいた。
リュカはその日のうちに、ロエルに向けて新たな手紙を書き始めた。
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