零章

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愕然としていた。 駅前ビル5階ゲーム専門店の奥にある18禁コーナーへ堂々と入っていく相倉を見て呆けていた。 口と瞼が開いたまま塞がってくれない。 女子高生が勇ましく入っていく場所ではない筈だ。 僕の純情を汚さないでくれ。 仮にも顔は整ってる部類なのだから、後は清純ぶった幼馴染のキャラを演じていてくれたら他は要らないんだよ。 何とか言ってくれ。 「ほら、こっちでしょ?」 こいつに羞恥心を期待した僕がバカだった。 あの後、僕が口を滑らせ必死に弁解して慌てる様子の中、相倉もその手の愛好者だとカミングアウトされた。 最初は動揺するも話が盛り上がってしまい、此処まで少し時間を要してしまった。 二回大きく深呼吸を繰り返して、 18禁コーナーへ消えた連れの後を追う。 「あ、ああ…分かってるよ。」 相倉は学生服だが大丈夫なのだろうか。 丸バツの書かれた黒い垂れ幕を潜ると、 ゴムの臭いが押し寄せてきた。その臭さが逆に胸を高揚感で満たしてくれる。 「新作コーナー、あったあった。」 気が気でない僕を差し置いて、相倉はさっさと歩いて行く。周りからの視線がビシビシに突き刺さるの感じながら、僕も新作コーナーへと小走りで急ぐ。 「よかった、売り切れてなかった…?」 確かに目当ての物はあった。 表紙パッケージを立てかけてある横に『ラスト一点』と無情にも書かれてあるポップが置かれていたが、相倉の両手に商品は取られていない。 つまり売り切れ。 「え、ええええ…?そんなぁ……。」 青天の霹靂とはこの事だろうか。 まあいいんだけどさ。 早起き出来なかった自分に言う資格はないが、相倉にバレなければこんな事にはと思ってしまう。まあいいんだけどさ、 次の入荷まで待てばいいだけの話だ。 まあ、いいんだけどさ。 これ見逃しに見せびらかしやがって、お前が買えるのは誰かが買えなかったからだと分かっているのだろうか。 まあ、いいんだけどさ。 こんな事なら予約でもしておけば良かった。 まあ、いいんだけどさ。 まあ、いいんだけどね。 「…良かったら、譲るよ?」 我ながら単純だと思う。 自分が破顔したのが鏡無しでも分かった。 相倉に譲られるのは屈辱だけど仕方ない。 「ありがとう。気持ちだけ受け取る。」 流石の僕も、こういう場面では弁える。 喜んだり悲しんだりと忙しい僕の顔は、 図太い神経の持ち主である相倉さえ困らせてしまったらしく、 どうしようかと悩む事となった。 「うーん、困ったね。」 うんうんとアダルトコーナーで二人して呻いている珍光景に、周りの人から好奇心の目で見られているのにも気づかない程、 僕達は真剣に頭を悩まして考えていた。 「 あ、じゃあ…私がクリアしたら耕平にゲーム貸すのはどお?」 閃いたと言わんばかりの相倉、 僕は目から鱗が落ちるとはこの事かと言わんばかりの衝撃を受けた。 もちろん発案にではなく、相倉がそれをしてくれるという意外な寛容さにである。 「………それだよ!天才!」 清々しいまでの手のひら返し。 ここぞとばかりに鼻を高くする相倉をここぞとばかりに褒めちぎると、 「それじゃ会計してくるね」と言い残してせっせとレジに向かう。 相倉が財布に手を伸ばしたその隙に、 僕は財布も持たずにポケットに突っ込んだ1万円札を抜き取り、 レジにいた店員さんへと手渡した。 「………は?何やってるの?」 「 半分はクリアした時に返して。」 相倉は案の定、怪訝そうな表情を浮かべていた。 愚鈍な相倉は僕の名案をすぐに理解できなかったようで、キョトンとした様子で立ち尽くしていたが、暫くして手の平に小槌を打つ真似をする。
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