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磨かれた美的センス
父の故郷だった信州、松本郊外、南安曇郡大妻村は
東洋のスイスと言われるぐらい風光明媚なところだった。
遠くに北アルプス連峰が聳え立ち、春の田んぼにはレンゲの花が咲く乱れて
いた。その中を、寝ころびながら回転させて、友だちと遊ぶハシルは、世の中
にこんなカッコいい場所があったんだと大声で叫びながら、回転のピッチを上
げていた。
自然の色彩は人工では作れない鮮やかな自然色だった。彼の脳裏に刻まれた
センスの塊は消えることはなかった。小さい時にこんな体験はとても都会では
味わうことのできない経験だった。
清らかで澄み切った光景に遊び戯れる自分に驚きすら感じていた。
「何てすげえ景色なんだ!!」
今まで見たこともないレンゲ草の花々の囲まれた彼の心は澄み渡っていた。
「誰にも、見せたくないな。 オレのものだ」
小さなセンスがヌクヌクと育っていった。
スミレ、タンポポ、レンゲソウと言われる花々は日本の自然に育てられた
モノだった。恵まれた自然の中で彼の美的センスも磨かれていった。
疎開したことにより、自分の運命を育まれるようになったハシルは、ピンチ
が逆にチャンスとなった。
後に、スイスのグラフィスに3年連続して入選掲載されるようになった彼は
日本を代表するグラフィック・デザイナーになったのは、この信州、大妻から
のスタートだった。恵まれた自然環境の中で、疎開という谷族のハンデの中で
咲いた一輪の花だった。
「何事にもガマンして負けるな」
「若者よ、大いなる野心を抱け!!」
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