エピローグ

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エピローグ

 千歳は夜の浜辺に毎日のように出かけるのが日課になっていた。夜の海を見ていると、昔は恐ろしさばかりだったのに、なぜかずっと、胸につかえているものを感じるようになった。  それは、痛みという切なさ。  理由が分からないので、こうして海へと出かける。あまりにも寒いので、水筒に入れてきた温かいお茶を飲んで座り込んでいた。 「——寒くないですか?」  突如、暗闇が動いて声をかけられた。千歳は驚いたのだが、その驚きと同時に、なぜか懐かしさがこみあげてくる。 「寒いんですけど…なんか、ここに居たくて。誰かと一緒に、こうして海を眺めていた記憶があるんですが、誰だったのか、夢だったのかも分からずで」  なぜかすらすらと話してしまって、千歳は自分でもこんな話を初対面の人にするなんて不思議だと思いながら笑った。 「お隣、いいですか?」 「どうぞ」  その声は、聞けば聞くほどに、懐かしい気がする。千歳は不思議な既視感に、隣に座った男性を見つめた。  千歳の視線に気がついて、その男性が微笑む。  柔らかくて、ちょっとぎこちない。精悍な顔立ちに、縁のない眼鏡をしていた。 「私も、この場所が好きなんです。思い出がありまして…」 「へえ。お話、聞かせてください」 「長くなりますが——」  何ともロマンティックなお話で、千歳は夢見心地になりながら、ぼんやりとその男性が紡ぎだす物語を聞いていた。聞いたことがあるような、ドラマにでもなってしまいそうな、そんな物語だった。  寒いので、そろそろ帰りましょうと男性が立ち上がる。千歳はその長身を見上げた。 「あの、明日もここに来ますか? なんだか、あなたと初めて会った気がしなくて。それに、お話も面白かった。また聞きたいです」  千歳は立ち上がると、青年をじっと見つめた。見たことがある顔ではないし、知り合いでもなんでもないのに、なぜか急激に懐かしい気持ちがこみ上げてきた。 「もちろんです。明日も来ますね」 「あの。あなたの、名前は?」  立ち去ろうとする男性の後姿に、千歳が声を投げかける。男性はゆっくりと振り返って、優しい笑顔になった。 「私の名前は——」  柔らかな声で、冬の空に青く光る星の名前を告げる。  完
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