恋野語り

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恋野語り

 覚田さんのことが僕は高一からずっと好きだった。けど、女子どころか人とまともに話せない僕は影から見るばかりで、気づいたら高校最後の夏になっていた。  どうしよう、気持ちを伝えるべきか……。  夏休み。家で受験勉強をしようとするが、手がつかない。  次から次へと覚田さんのことが浮かぶ。キリッとした眉、麗しい目、空手で県大会に出る運動神経がありながら学年百位以内の学力……。  おかしくなる頭をどうにか落ち着かせたく、ラジオをかけてみる。  と、曲が流れてきた。サモエドというグループの曲だ。ロックバンドだが優しく心地よい曲調の歌を作る。歌詞は不思議な感じのものが多く――  僕はとある歌詞にひきつけられてしまった。「君の夢の中でも君を助ける……」  夢の中なら覚田さんと話せるだろうか。助けたら僕のこと好きになってくれるだろうか。  やってみたい。そう思ってしまったのがいけなかった……。  僕は一旦集中すると周りが見えなくなる。  無我夢中で他人の夢に入る方法を模索した。  本を読みあさり、滝行や座禅をし、できると言う人に手当たり次第会いに行って、それから山伏に同行したりもした……。  気づいたら、できるようになったけど、夏休みは終わった。  全く受験勉強をしない間に夏休みは終了した。  でも、受験勉強と引き換えに僕は覚田さんに夢の中で話せる力を得た。  しかも、高校最後の大会で全国を目指していた彼女は県大会止まりだった……という情報も――!  これは、全国にいけなくて落ちこんでる彼女を助けるチャンス!  そう思った僕は、その情報を得たその日に彼女の夢の中へと入りこんだ。  入った先の彼女は、海を見つめて立っていた。  入ったはいいけどどんな言葉をかけたらいいかわからなかった僕は、サモエドの歌詞を思い出して口に出してみた。 「夜は暗いけど、暗ければ暗いほど星が輝いて見える」  夢の中の彼女が僕のほうを振り返って見つめてきた。  彼女と見つめ合えるなんて……なんて最高なんだ! と、僕は興奮しながら、言葉を続けた。 「だから、今キミは辛いかもしれないけれど……」 「は? なに言ってんの? 私が落ちこんでいるとでも?」 「あ、いや……」  ものすごい剣幕の彼女に迫られ、とっさにいい言葉を探してみるけどみつからない……。  「なんで恋野君に夢を乗っ取られないといけないのよ! いい夢を見てたのに……。消えて!」  これ以上彼女に嫌われたくない僕は、彼女の夢から出たのだった。  
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