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恋野語り続き
慰める機会なんてなく、自分の思いも伝えられず、夢作戦は失敗に終わった。他人の夢に入る能力を、ひと夏を費やし手に入れたのに……。
翌日、覚田さんと目が合った。目が合ったというより、彼女のほうが僕を見つめていたのかもしれない。目線に気づいたときには、彼女の目は、今にもとらえた獲物を殺すような目をしていた。
できれば昨夜のことを忘れてほしいと、僕は目をそらした。が、それが挙動不審だったのだろう。
彼女に「来て」と言われ、人気の少ない校舎裏へと連れてかれた。
校舎を背に立つ僕の前で、彼女は鬼の形相で睨む。
怖いけど、なんだか僕は嬉しかった。夢ではない現実で、覚田さんと二人きりで見つめ合っているのが。
「昨日のあれ、なに?」
「へ? な、なんのことかなぁ。い、言いがかりはやめてほしいな」
夢であったことをなかったことにしたくて、頑張ってしらを切ってみた。
が――、覚田さんの鋭い拳が飛び出してきた! その拳は僕の顔をかすめ、壁に亀裂をいれた……。
「ご、ごめんなさい」
覚田さんの拳に恐怖を感じた僕は、すぐに観念して謝った。誤れば許してくれることを期待して。
けど僕の顔がパシーンとはたかれ、はずみで僕は転がった。立ち上がろうとしたとこにまたパシーンと、パシーンと、パシーンと……。
「あのあと寝れなかったじゃない! 頭が変に痛いじゃない! すっごい気持ち悪い!」
彼女はそう叫びながら僕の顔を叩き続けた。
当然痛かったけど、覚田さんの手に触られてるのが嬉しくて、なんだか気持ち良かった。
そのあとしばらく、その場に伸びていたけど、赤く膨らんだ顔は幸せそうな顔だったと思う。女子の手に顔を触ってもらえるなんて、しかも覚田さんに触ってもらえたなんて、最高だった。
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