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そのまま大学にて
「それは結局いい思い出になった……で良かったのかな?」
語り終わってまた空を見つめる恋野に、俺は聞く。
「たぶん……。おかげであれから目に見えない力、目に見えない世界に興味を持つようになって、受験勉強もせず、この大学にはいったんだ。
引くでしょ?」
「ううん。おもしろそう」
他人の夢に入ること以外にもなにかできるなら、教えてほしい。今まで知らなかった、目に見えない世界の話なんて、好奇心がそそられる。
「本当にそう思う? 好きなコと話したくて夢の中に入ったんだよ。明知は僕のこと気持ち悪くない?」
「そんなことを本当にできてしまうなんてすごい。俺もやってみたい。恋野が模索したときにやったのと同じことしたらできるようになるかな?」
「どうなんだろうね。難しいかも……」
「じゃぁ、他には俺でもできそうなことある?」
夏の始まりを告げるかのように蝉がけたたましく鳴きだした。
このまま今年の夏が終わる予感がした。海で騒いだり、バイトに明け暮れたり、取りたての免許で運転したりと――、楽しい予定があったはずの大学のひと夏が。
けど、俺は興味を持ってしまった。恋野がはまってしまった目に見えない世界に。
それからしばらくの間――秋学期が始まるころまで、空を見続ける明知と恋野が大学構内で目撃されるのだった。
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